第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
ショックの大きさに泣きながら実家に報告する為に帰れば、既に両親ともに説得されていて私の居場所は塞がれていた。
もう・・・従うしかないんだ。
だったらもう、覚悟を決めるしかない。
そう思いながら、気晴らしの為に普段は足を伸ばさない場所まで散策に出れば、見覚えのある大きな建物が見えて来て懐かしさに足を向けた。
人の多さに、きっと何かのイベントでもやってるんだろうと入口を見れば、記憶に懐かしいトーナメント表が張り出されていて。
『春の高校生バレーボール大会・・・これってもしかして・・・?』
知り合いなんているはずもない会場へ、フラフラと入って行く。
いろんなカラーのユニフォーム姿の人がロビーには溢れていて。
きっと負けてしまったんだろう涙を流す仲間の肩を叩く、同じように目を赤くしたチームメンバーがいて。
かつて大好きだった人を、その人たちに重ねては懐かしい・・・と胸を熱くした。
まだ、試合やってるみたいだな・・・
ほんの興味本位で観覧席へと続く階段を上る。
重厚な扉を押し開けて見れば、そこは熱気と歓声が溢れる場所で。
『烏野高校 対 伊達工業・・・高校?』
遠くから見ても分かるほどの背の高い男の子たちが、コートの中で汗を流していた。
とりあえずすぐ近くの空いている席に座り、どこだか分からない高校同士の試合を観戦する。
『あっ、また・・・』
黒いユニフォームを来てるチームが何度もスパイクを打つも、相手チームにその度にブロックされては・・・小柄なリベロの子が飛びついては、拾う。
それは何度も、何度も、何度も繰り返されて。
『あっ!また!!』
白熱する試合に私も思わず立ち上がってしまう。
けれど。
最後の最後で、それまで何度も飛んではスパイクを打ち続けていた彼は、自身にトスを呼ぶことはなかった。
「ライト!!」
代わりにトスを呼んだ人がスパイクを打つも、やはり相手チームのブロッカーに阻まれて、ボールがコートに落ちた。
試合終了のホイッスルが響き渡り、項垂れたままの大きな背中のスパイカーの彼と、悔しそうな顔をしたままの小柄なリベロの彼が列に並ぶ。
それはとても対照的で。
そして、印象的な場面だった。
ストン、とまたイスに腰を降ろして大きく息を吸って吐き出す。
緊迫した時間の中での呼吸は苦しくて、それが呼吸を大きくさせた。