第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
俯きながら走って角を曲がろうとすると、突然現れた人影を避けることが出来ずに衝突してしまい、弾かれた体が地面に倒れてしまう。
『ごめんなさい!ケガはありませんか?!』
咄嗟に顔を上げれば、そこには私よりも随分と大きな人影があって。
「ケガの心配するなら、俺らよりアンタじゃねぇのか?」
ぶっきらぼうに言い放つ、少し強面な男の子と。
「岩ちゃんってばもっと優しい言い方とか出来ないの?!・・・お姉さん、大丈夫?立てる?」
爽やかな笑顔を見せながら、手を差し伸べる男の子がいて。
『ホントにごめんなさい。ちょっと・・・私がボンヤリしてたから』
差し出された手を借りて立ち上がり、服に着いてしまった汚れを払い除けながら2人を見れば、揃いのジャージを来て大きなカバンを肩から下げる姿が飛び込んでくる。
北川第一・・・排球、部・・・?
『あの、もしかしてバレーやってるの?』
揃いのジャージに縫い型られた、恐らく学校名や競技名をまじまじと見ながら聞けば、私に手を貸してくれた男の子が大会の帰りなんだと笑いながら教えてくれた。
「オレはセッターで、岩ちゃんはスパイカー!今日も天才的に活躍で全勝して来たとこ!」
「自分で天才とか言ってんじゃねぇよ!このボケ川が!」
「痛ったーい!もう!なんで岩ちゃんはすぐゲンコツするかなぁ!オレがバカになったらどうするんだよ」
「心配すんな、それ以上ならねぇ事はオレが保証してやる」
まるでコントのようなやり取りを目前にして、思わず笑ってしまう。
「あっ、お姉さんちゃんと笑ったね」
『え・・・?』
「だってお姉さん、泣いてたでしょ?ここ、涙の跡がある」
ツン、と私の目尻を指先で触れて、その指先をすぅっと頬まで辿る。
「初めて会う人間に馴れ馴れしくイキナリ触ってんじゃねぇ!」
「痛っ!だからゲンコツやめてって言ってんじゃん、もう!!頭や顔がボコボコになったバレー出来なくなったらどうするのさ!」
「うっせぇな!頭と顔がボコボコでも、その手がありゃバレー出来んだろうが!ったく・・・悪ぃな、コイツ女には誰でもこうやって触りまくるからよ」
『え、あ、いえ・・・大丈夫。ちょっとビックリはしたけど』
涙の跡を消し去るようにクイッと手で拭って、2人は仲良しなんだねと笑って見せる。
「まぁ、及川とは子供の頃からの腐れ縁だ」