第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
『そんな子供みたいなこと言っても、ダメ、絶対』
みんながいる時は自分は長男だからしっかりしないといけないんだ···と言ってたち振る舞うのに、こんな時ばかり子供っぽい素顔を見せる桜太に笑ってしまう。
桜「いいんだよ、子供で。男はいつだって子供みたいな生き物なんだ」
『なにその言い訳···慧太くんみたいだよ?』
桜「あー···慧太と同じレベルとか、ちょっとイヤかも」
『同じレベルって、そもそも桜太と慧太くんは双子でしょうに···』
桜「あれ、そうだったっけ?」
ふざけた言い回しで言葉を交わし、向き合って笑い合う。
そんな私達の間を、柔らかな風が通り過ぎて行った。
それから少しの間、お互いの近況などを話して過ごし、空が茜色に染まり出した頃···
『そろそろ···行くね』
会話が途切れたタイミングでベンチから立つ。
桜「送って行くよ」
桜太も立ち上がり、私の背中に手を当てた。
『まだ早い時間だし、大丈夫。だから···ここで···』
桜「分かった···じゃ、公園の入口までは一緒に行こう」
私と同じ歩幅で隣を歩く桜太の姿。
これが最後だと思うと、寂しくて、悲しくて···気持ちが揺らいでしまいそうだった。
桜「梓、ひとつだけ···聞いてもいい?」
不意に足を止めた桜太が言う。
『なに?』
桜「···嫌いになった?」
透き通った真っ直ぐな瞳を微かに揺らしながら、私を見つめる。
『違う。そうならない為に、決めたの』
これは、本当。
『だから、私のわがままだと思って···そんなわがままな女は面倒だと思って···桜太は私を嫌いになってもいいから···』
桜「わがまま、か」
ぽつり呟いた桜太は、そのまま少しの間なにも言わずに空を見つめていた。
私が桜太を嫌いになる日なんて、きっとない。
けど、こんな勝手な私を桜太が嫌いになるのは···仕方ないから。
桜「ねぇ、梓?···俺のわがまま、聞いてくれる?」
空を見つめていた桜太が小さく息を吐いて、私に微笑む。
『桜太の、わがままって···なに?』
その微笑みに微笑みを返して、ただ、桜太を見つめる。
桜「少しでいいから···抱きしめてもいい?」
『私を?』
答えなんて分かってるのにそう返せば、他にいないだろ?って桜太が笑う。
なんて答えたら、と迷いながら桜太を見る。