第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
和「ちょっと今日は飲みすぎじゃない?このまま帰す訳には行かないから、送るよ」
和泉君に言われて、酔ってないから大丈夫とは言い切れない足取りに申し出を迷う。
何度も止められたのに、味が分からず飲み続けてしまった自分の始末に情けない気持ちさえ沸き起こる。
『ちょっと休めば大丈夫だから···でも、いまは』
ひとりにしないで···和泉君にもたれ掛かってそう言いかけた時、ふらつきながら人にぶつかってしまう。
『すみません···』
和「ほら、ちゃんと歩けてないじゃないか。すみません、連れが···あ···」
和泉君が言葉を途切らせる空気を不思議に感じ、ふと顔を上げる。
桜「和泉···?それに、梓···まで···」
自分がぶつかってしまった相手は、いつだって会いたくても···会えなくて。
やっと会えると思った時には···誰かといて···
『桜太···』
酔い潰れかけた私を見る桜太の表情が、冷たく固まっていく様を、ただ···眺めた。
和「久し振りだな、城戸」
桜「そう···だね···」
『桜太、あのね···和泉君とは、』
なんでもないから、と言いたいのに、その言葉を発する前に···
「城戸君ごめんね、お待たせ!」
あの時と同じ···誰かの姿が現れて、言葉を飲み込んだ。
「あれ?知り合い?」
キョトンとした目で私達を見る女の子は、髪をひとつに纏めたキレイな顔立ちをした···女の子で。
桜「高校の時の···同級生だったんだよ。偶然いま、バッタリ会ったんだ···」
桜太の口から同級生だったんだと紹介され、心が···落ちて行く。
和「同級生だった、ね···ま、間違ってはいないけど、他の紹介の仕方もあるんじゃないか?伊吹さん、お前の、」
『和泉君、大丈夫だから···もう、行こう···』
気を使ってくれてる和泉君を無理に引っ張り、またね?と桜太に行って歩き出す。
和「伊吹さん。ちゃんと話をしないとダメだろ?あんなんじゃ、伊吹さんがオレとの関係を城戸に誤解されても仕方ないんじゃない?」
立ち止まって振り返る和泉君をまた引っ張り、いいから行こうと足を運ぶ。
和「いいから大丈夫って、そういう顔···してないみたいだけど?···ほら、使いなよ」
差し出されたハンカチを見て、そこで初めて自分がぽろぽろと涙を零していることを知った。