第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
最後に電話したの、いつだっけ?
そんな事を考えてしまうほど、もう···結構会えてない気がする。
いっそ、家まで会いに行ってしまおうかとも考えてしまう。
···って!
それじゃまるでストーカーじゃない!!
でも···会いたいよ···桜太。
大学で専攻してる学部の課題を進める手が止まり、ため息を吐いた。
ふと見れば、これから後に使いたい油絵の具が切れかけてる事がわかり、気分転換に買い物にでも行こうかと支度をして家を出た。
真っ先に画材屋へ行き、ひと通り必要な物を買い揃えて街をブラブラと歩く。
高校時代によく通ったカフェの前で足を止め、ここで桜太とよくおしゃべりをしたなぁ···なんて思い出に浸っては、また歩き出した。
結局どれだけ街を歩いても、画材の他に買い物なんてすることもなく、やりかけの課題はそろそろ乾いたかな?なんて思って家に帰ろうと繁華街を抜けて駅へと向かった、時。
···桜太?
ここにいるはずのない桜太が、ひとつ先の信号の脇にいた。
今週は確か、大学に詰めてて···とか言ってた。
だから、こんな所に桜太がいるはずはない。
だけど、そこにいるのは間違いなく桜太で。
私が···見間違えるはずもなくて。
声を掛けて、ちょっとビックリさせてみよう。
そんなイタズラ心が顔を覗かせ、信号が変わった瞬間に駆け出した。
桜太がいる路地角まではあっという間で、いよいよ声を掛けようと大きく息を吸って···
『桜···』
「桜太くん、遅れちゃってゴメーン!いっぱい待たせちゃったよね?!」
桜「大丈夫。そういう時間も楽しめてるから」
私が声を掛けるより先に駆けつけた人が桜太の名前を呼び、隣に並ぶ。
桜「じゃ、行こう。まだ間に合うから」
胸ポケットから出したチケットをヒラつかせ、桜太が女の子の背中に手を当てて歩き出す。
「今日はありがとう。ひとりじゃつまんないし、どうしようかと思ってたから」
桜「それなら、よかった。映画が終わったら、食事をして帰ろう。ちゃんと家までは送り届けてあげるから」
どういう、ことなの···?
ねぇ、桜太?
今週はずっと、学部に詰めてるって···言ってたよね?
だから私と会う時間が取れないって···言ってたよね?
なのに。
どうして桜太は···いまここにいるの?