第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
ふたりがどんな話をしたのかは分からない。
だけど、その日以来···お父さんからは何も言われなくなった。
少しずつ季節は巡り、いろいろなハジメテを経験して···私達はゆっくりと大人の階段を上がって行った。
お互いになかなか時間が取れない受験生という枷に繋がれていた時も、たとえ会う時間が限られていても···その行く末には、いつもお互いが寄り添っていると信じていた。
高校を卒業して、私は私の目指す道を歩く為の大学へ進み。
桜太は桜太の目指す道を歩く為の大学へと進み。
高校生の時よりも、ずっとずっと会える時間は少なくなっていた。
それでも私は、どんなに離れていても、どれだけ空白の時間が増えても、お互いの気持ちはずっと変わらない物だと信じていた。
···はずなのに。
桜「···ごめん、その日は俺が都合が悪くて」
『そっか···じゃあ仕方ないよね···』
お互い全く違う大学へと通ってるから、予定が合わせにくくいとか、そんなのは早々に分かってた。
でも、ここ暫くは会うどころか電話だってろくに···
桜「ごめん梓、俺もう行かなくちゃ···」
『分かった。また···連絡するね』
少しでもいいから会いたい。
もう少し声が聞きたい。
そんな言葉を無理やり飲み込んで、通話を切った。
桜太は···医者になる為の勉強をしてるから、忙しいのは仕方ない。
そんなの、分かってたじゃない。
だから、会いたいだとか、話がしたいだとか。
だからそれが···私のわがままだと言われるのが怖くて。
嫌われるのが怖くて。
そういった気持ちを隠すために、私の心は少しずつ後ろ向きになって行った。