第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
それからは季節が移りゆく度に、妹さんも連れて出掛けたり、時には弟くんまで一緒にみんなで出掛けたりして。
ふたりきりでどこかへ···なんてたまにしかなかったけど、ひとりっ子の私にも妹が出来たみたいで嬉しくて、周りからはなんだかんだと言われたけど構うことはなかった。
その頃には城戸くんとの距離も縮まって、最初はホントに指先が触れるだけで緊張したけど、自然に手を繋いでいたり、お互い名前で呼び合うようになり。
城戸くんの妹さんも私を梓ちゃん、とか呼んでくれるようになって更に仲良しになれた。
ご両親に紹介された時には、緊張と不安で胸が胸が押し潰されそうになったけど、とても優しいご両親ですんなりと私を受け入れてくれた。
少しだけ声の似てる感じのお父さん。
笑ったときの目元がよく似てるお母さん。
とても、素敵な家族だと···思った。
私の両親は交際にずっと反対していて、なかなか紹介出来る機会がなくて。
でも、私の親がそんな風でも···一生懸命、城戸くんが何度も訪ねて来てくれて、挨拶だけはきちんとしてくれた。
そんな、ある日···
学校から帰ると、リビングで私の帰りを待っていた父が書類封筒をテーブルに放り出した。
『···これ、なに?』
「城戸くん、だったかな?彼の事を少し、調べさせて貰った。彼は将来、医者になる為に勉強しているそうだね?」
『なんでそんな事を···?』
震える指先で封筒から書類を出し、写真や文字を追っていく。
そこには桜太の、これまでの事や···ご両親の職業や、家庭環境がこと細かく書いてあって···
「この先、長い付き合いを考えているなら医者なんかではなく経済学を学んで貰わないと困る。うちには子供はお前しかいない···考えればわかる事だろう?」
身勝手な父の行動に、吐き気がした。
『私たち、まだ高校生···だよ?』
「もう高校生、の間違いだろう。お前にはこの私の会社を引き継いでくれるような人間が必要だ。残念だが
将来を決めて歩いている彼は、うちの条件には当てはまらない。まだ傷が浅い内に···」
傷···って、なに?
条件って···なに···?
そんなの、私は知らない···私には関係ない!
「梓!!待ちなさい!!」
手荷物を父に投げつけ、体ひとつで家を飛び出した。
誰か···助けて···