第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
「あのね、おぅちゃんがバシーンってボール打ってね、カッコよかったよ!!」
興奮気味に話し出す妹さんに、城戸くんが優しく微笑む。
桜「そっか、慧太と見に来てたのか。だから頑張れたんだなぁ」
小さな体を抱き上げながら言って、ちゃんとお利口さんに見てたか?なんて笑いながら頭を撫でていた。
「それでね、おぅちゃんが走って行っちゃったから、けーちゃんが抱っこして追いかけてね、ビューンって面白かったんだよ?」
桜「それはよかったな。じゃ、帰り道はまた慧太がそれやってくれるぞ?な···慧太?」
慧「ゲッ···マジかよ」
歳の離れた妹さんを囲んで、楽しそうに笑い合う姿を見て私もつい、笑ってしまう。
ひとりっ子の私には、そういう会話なんて経験なかったから···ちょっとだけ、羨ましくもあった。
私に妹や弟がいたら、きっとこんな感じなんだろうな···とか、そう思うと、ひとりっ子って寂しいかもなんてそっと肩を竦めていた。
「それでね、おぅちゃん。やっとおぅちゃん見つけたのに、けーちゃんが隠れろって言ってね···」
慧「おい?!あそこにお前が好きなお菓子あるかもな?!な?!買ってやるから行くぞ!」
妹さんの言葉に慌てだした弟くんが、城戸くんから奪い取るように小さな体を引き剥がすも、城戸くんはそうはさせるかと軽くかわす。
桜「慧太はなんて言ってた?」
「あのね、けーちゃんがね?おぅちゃんがおねえちゃんとチューするかも知れないから、隠れてようって」
『えっ?!』
隠れてようって···えぇっ?!
思わぬ展開に、急激に体温が上がるのを自覚する。
桜「そういう事か···慧太、お前は紡になんて事をさせてんだ?」
慧「あ、いやぁ···ハハッ···でも、間違っちゃいねぇだろ?な?···伊吹さん?」
そこで私に振らないで!!
動揺しまくりの私を、ジッと見つめる妹さんの視線から逃れるように、そっと視線を外す。
桜「そういうのは、誰もいない時にするからいいの。まだまだ、これから長いんだから···ね、伊吹さん?」
『えっ?えっと···』
たじろぐ私に、城戸くんがそっと顔を寄せて小さく笑う。
桜「期待を裏切る事は、しないから」
『き、期待とかしてないから!』
焦る私を楽しそうに見る城戸くんの目は、いつもと同じように···優しい光を灯していた。