第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
毎月の委員会で顔を合わせれば、たわいもない話で笑い合い。
移動教室で見かければ、お互いに声をかけあい。
夏休みになれば城戸くんは部活の合宿に入ったり、私も文化祭や芸術選考会の作品を手掛けるために家や学校のアトリエに籠る日が続いて、たまにくるLINEや電話のやり取りをしながら長い夏休みを終える。
本当は、何度も···バレー部の大会を城戸くんに内緒で見に行ったりもして。
学校優先席でなんて見てるのも落ち着かないから、少し離れた一般応援席で見てた。
1年生ながら最初からコートに立つ城戸くんは、バレーのルールなんて全然分からない私でさえも胸を熱くするようなプレーをしていて。
城戸くんを応援する···黄色い声も凄くて。
試合が終わる度に女の子達から声をかけられると、ちゃんとそれに答えて手を振る城戸くんを見ては、チクリと胸が痛くなった。
いつだったか同じクラスの子が言ってた、城戸くん狙いのファンがたくさんいるって話も、妙に納得出来てしまって。
そうなると私なんて、ただ同じ委員会で、出会ったのが偶然で···とか、そんな小さな存在なんだと思わされて。
閉会式の後で女の子に囲まれる城戸くんを見て、誰にもバレないようにそっと会場を後にした。
ひとり、見知らぬ街の駅で電車を待つ。
その間もずっとずっと、城戸くんの事を考えていて。
いろんな気持ちを混ぜ合わせているうちに、気付いてしまったんだ。
自分が、いつの間にか城戸くんを好きになっている事を。
城戸くんが、好き。
そう自覚すれはするほど、城戸くんを囲むキラッキラの女の子達と自分を比べてしまい、悲しくなった。
きっと城戸くんは、普通っぽさ満載の私が···物珍しくて···友達として接してくれたんだよね?
自分で城戸くんが自分の物差しで人を見るはずがないと思っていたのに、なぜだか今日はそんな気持ちが浮かんでしまった。
乗るはずの電車が滲んで見えて、ベンチに腰掛けたまま動けなくなる。
やがて電車のドアが閉まり、滲んだ世界の中をゆっくりと動き出した。
『釣り合うわけ···ないよ···』
誰に言うわけでもなく言葉がこぼれ落ちる。
「なにが、釣り合わないの?」
『だから、私が城戸くんとなんて釣り合わないの!』
言ってしまってから、その声の主にハッとして顔を上げる。
『城戸くん···』