第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
桜「···駆け出してた。なんか、カッコ悪い感じで···ゴメン」
視線を逸らしたままぽつりぽつり言う城戸くんに、なぜだか凄く心を擽られて、私まで照れが伝染ってしまった。
『カッコ悪くなんて思ってないよ。だって私、ほんとに困ってたんだから···和泉くんの強引さに。だから、間に入ってくれてありがとう』
桜「どう···致しまして。立てる?」
座り込んでいた私に、ごく当たり前の流れで城戸くんが手を差し出して私もその手を取って立ち上がる。
『なんだか、初めて会った時みたい。あの時もこうやって立ち上がらせてくれたんだよね、城戸くんが』
桜「そうだったね···あの朝、あの道を通り掛かって子猫の鳴き声がして。どこで鳴いてるんだろうって周りを見たら、ネクタイで髪を纏める伊吹さんが見えて」
そんな初めの頃から城戸くんは居たんだ···
桜「初めは何してるんだろうと思ったら、枝の上に子猫がいるのが分かって。まさかと思ったら···フフッ」
『その、まさかだった···って事ね?』
クスクスと笑いながら城戸くんが頷く。
桜「声をかける前に、あっという間に登ってしまってさ。予想外にスルスルと登ったから、すぐ降りてくるだろうと思ってたら、なかなか降りてこないし」
『だって降りるのがあんなに大変だなんて思わなかったんだもの。子猫は鳴いてしがみついてるし、下を見たら···結構な高さだったし。途方に暮れてたら、城戸くんが現れて助けてくれたから。だから、ちゃんとカッコいいよ?これがおとぎの世界なら、きっと城戸くんは王子様ポジションだね』
桜「白馬とか乗ってる?」
笑いながら言う城戸くんに、私も笑い返す。
『白いタイツとかも履いちゃう?』
桜「それはちょっと···イヤかも」
自分の姿を想像したのか、一瞬黙り込む城戸くんと目が合って。
同時に吹き出して豪快に笑い合う。
息が上がってしまうほど止まることのない笑いに包まれる。
そんな私達の周りを、夕日が照らし始めていた。