第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
これが、きっかけだったのかも知れない。
数日後に学校でお礼にどうぞって、クッキー片手に声をかけられて。
それからも、教室まで来てはお昼に誘われたり、芸術科の課題展示会を見に来てくれたり。
そんな日々が続いた頃、突然···予想もしなかった人物から呼び出された。
手紙に書き示された場所へ行けば、そこには私を呼び出した本人がいて。
『あの、和泉くん···用事って?』
全ての授業が終わり、誰もいない校舎の屋上で1人佇む和泉くんが、私の呼び掛けにゆっくりと振り返る。
夕日を背にして微笑みを浮かべる和泉くんに、なぜだか背筋がゾクリとして後ずさった。
『特に用がないなら、課題があるから···』
そう言いながら、また1歩下がる。
和「用ならあるさ。伊吹さん、キミさ···」
『なに?』
和「オレと付き合わない?」
···は?
なんでいきなり?!
拍子抜けするような言葉の羅列に戸惑う。
『お断りします。用事って、そのこと?』
和「そうだけど?答えは待つよ、幾らでもね」
『だから、お断りしますって言ってるのに』
そもそも、どうしてこんな展開になったのか。
なぜ私なのか?
···分からない。
だって普段は取り巻き的な女の子を連れて歩いてるし!
···普通科の、超進学クラスの。
和「急で驚いたかも知れないけどさ?」
いや、ホントにです!
···違う違う!
そうじゃなくて!
『ひとつ、聞いてもいい?』
和「どうぞ?」
『どうして私?女の子なら、和泉くんの周りにいっぱいいるじゃない』
一定の距離を保ちながら聞けば、聞きたいことはそんな事か···と和泉くんは呟いた。
和「あの取り巻き連中、飽きちゃったんだよね。僕の機嫌ばっかり取って、つまんない女達だよ。そしてキミは違う。あの城戸にもハッキリ物を言うし、そこそこかわいいし、って事で、どう?」
自分主体の物言いに、心底ウンザリする。
確かにあのクラスにいたら、それだけでモテそうだし。
容姿もきっと、いい方なんだとは思う。
けど。
どれひとつを比べても、城戸くんとはまったく違って···
それに城戸くんはきっと、自分の価値観だけで人を判断したりしない。
あ、あれ···?
どうして私、この人と城戸くんを比べたりしてるんだろう···