第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
目の前の立派なインターフォンを押す指が、何度も躊躇いながらその先を迷う。
でもせっかくここまで来たんだし、お見舞いだけ渡すってのもありかも知れない。
そう自分に言い聞かせて、思い切ってインターフォンを押した。
···反応なし、か。
ここまで来て会えないのかと思うと、ふぅ、と小さなため息が零れた。
「···はい」
で、出た!!
『あの、わ、私、』
「伊吹さん?ゴホッゴホッ···待って、いま、開けるから」
インターフォン越しの城戸くんは話しながら咳き込み、それだけでも具合いが悪いって事が分かった。
ほんの数分待つと門の鍵が自動的に空いて、そっと押し開けながら進むと、玄関のドアが開けられて部屋着姿にカーディガンを羽織った城戸くんが顔を出す。
『えっと···城戸くんのクラスに行ったら、和泉くんって人から風邪でずっと休んでるって聞いて、それでお見舞いに···』
桜「和泉に?···そっか、それ、で···」
目の前に急に影が落ち、ハッと顔を上げれば···グラリと傾く城戸くんの体。
倒れる···!!
咄嗟に腕を伸ばして体を支えれば、そこから伝わって来る···熱。
桜「ゴメン···もう、大丈夫だから」
そう言って離れようとする城戸くんは、心做しか呼吸も荒いような気がして、私は玄関にそのまま体を押し込んだ。
『全然、大丈夫なんかじゃないよ。息は絶え絶えだし、体は熱いし···とりあえず、お邪魔します。部屋まで送るから、案内だけして?』
桜「部屋まで送るって···何もしない?」
力なく笑う城戸くんに、普通はそれって女の子が言うセリフじゃない?と笑って返しながら部屋までの廊下を進む。
桜「ここ、だから···もう、」
『大丈夫なんて言葉、いまの城戸くんからは聞かない事にする。いきなり押しかけて来たのに悪いけど、こんな状態の城戸くんをほっとけないよ』
ほら早く···なんて言いながら城戸くんをベッドに寝かせ、私で良ければ何か作るけど?と言えば、ごく一般的にお粥なら食べられそうだと言われてキッチンを借りた。
さほど時間はかからず作り上げ、湯冷ましを添えて部屋へと運んだ。
『味の保証は出来ないけど、少しでも食べられそうなら食べた方がいいから』
まだ熱いままの体に手を添えて起こし、楽な体制でいられるようにベッドヘッドに凭れかけさせた。