第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
あの朝練見学から2週間ほど経った放課後。
私は授業の課題でもあるデッサンをする為に、美術室に篭っていた。
あの日から、全くと言っていいほど城戸くんと顔を合わす事もなく平穏な学校生活を送っていた。
同じ学科の友達からは、何度か部活の見学に誘われたけど、別段これと言って興味もなかったし、城戸くんを取り囲む女の子達と見比べられてしまうのも面白くないと思って誘いは丁重に断ってた。
自分が進みたい将来の為に、いまは何より学びたいことが山積みでもあったし。
実際は私が目指す未来では、木炭を使ったデッサンはあまり···というか、ほとんどないんだけど。
それも授業の課題であるなら仕方ないとばかりに芯抜きをした木炭を手に描き始めた。
『あ、またやっちゃった···これじゃ微妙な遠近が···』
木炭を画用紙に滑らせ初めてすぐに、ほんのちょっとのズレが出来てしまい、破線を消す為にカバンを開ければ···
『売店寄るの忘れてた···今から言ってもまだ食パンあるかな···』
木炭を手放し、汚れ防止のために付けていたエプロンを外す。
もし、売店になかったら今日はもう気が逸れちゃうし、やっぱり帰ろうかな?
そう思いなおしてサッと片付けをして帰り支度へと切り替えた。
帰りにスーパーに寄って買い物をすれば、明日早めに学校へ来て課題をやり直そう。
その方が集中出来るし、次の授業は来週だから時間的には間に合うから、と自分に言い聞かせて昇降口へと向かった。
靴を履き替え、正門をくぐり抜ける頃、体育館の方から見知った姿が走って来るのが見えて足を止めた。
あれって、城戸くん···だよね?
まだ部活が始まったばかりな時間なのに、今日は部活に出ないのかな?なんて呑気な事を考えていると、やがてその姿は近くまでやって来た。
桜「あれ···伊吹さん今帰り?」
『そうだけど···城戸くんも?』
桜「まぁ、そんな所かな···ちょっと急用が出来て部活は休ませて貰ったんだよ」
『急用?』
軽く息を切らせたまま話す城戸くんを見て、そんなに慌てるほどの急用ってなんだろう?とか思っていると、城戸くんがひとつ大きく息を吐いて鞄を持ち直した。
桜「妹が、具合いが悪いらしくて俺に電話が来たんだ。何とか家に帰ってるみたいなんだけど、ウチの親、今日はふたりともいないからさ」