第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
学校に着くまでに城戸くんはカップケーキを全て食べてしまい、朝日に負け劣らない爽やかな笑顔を添えて、ごちそうさまでした···なんて言ってくれた。
この時の私の胸がトクンと波打ったのは、きっとまだ私の脳がちゃんと目覚めてなくて、朝日の眩しさにやられていたせいだと···思った。
『じゃ、私はここで。城戸くんはバレー部の朝練、頑張ってね?』
正門をくぐり抜け、バレー部が使っている体育館とは別の方に足を向けると、クイッと腕を引かれて足を止めた。
『えっと、なに?』
桜「せっかく早起きして学校来たんだからさ、見ていかない?朝練風景」
···はぃ?
桜「だからさ、朝練見に来ない?って」
『どうして?』
桜「約束したから」
そう言われると無下には出来ずに、誘われるまま城戸くんの隣を歩く。
部活動の朝練を見学するなんて、きっと私くらいだろう···と思っていたら。
案内された場所には、どうしてこんな時間にも関わらず、煌びやかな女生徒が溢れんばかりに集まっていた。
よく見れば同じ学科の友達もいて。
「梓も城戸くんを見に来たの?やだ~、早く言ってよ!そしたら誘ったのにさ!」
なんて声を掛けられた。
城戸くんを、見に?
···なんで私が?
とも思ったけど、ややこしくなるから敢えて何も語らずに友達の隣で体育館を見下ろした。
待つこと数分、制服から練習着に着替えた城戸くんが現れるなり、辺り一面に黄色い声が飛び交う。
女性との誰もが城戸くんの名前を呼びかけ、そしてそれに手を振るなんて事もしない城戸くんに、女生徒は更にキャーキャーと騒いでいた。
「城戸くん、凄い人気だよね···ライバルがたくさん!」
へぇ···知らなかった。
城戸くんって、そんなに人気があるんだ?
だったら、私みたいな地味な感じの人間は···あんまり関わらない方がいいのかも。
周りをチラリと見渡せば、ごく普通の高校生であると思っていた私が凄く地味に感じてしまうほど、キラキラとしたメイクもバッチリの女の子達がいる。
そんな女の子達に囲まれてたら、私みたいなのは珍しい気がして···とか、そんな興味本位な感じなのかも知れないし。
初めて会ったのだって、あんな状況だったしね。
変な事に巻き込まれる前に、関わるのをやめよう。
そう思いながら、朝練風景を眺めていた。