第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
翌日の朝、少し早めに出れば朝練へ入る前に城戸くんに渡せるかな?と思いながら家を出た。
いつもならのんびりと歩く駅までの道を急ぎ足で進み、いつもよりいくつか早い電車に乗り、通勤者が多い車両に寿司詰めにされながら学校の最寄り駅で降りた。
昨日帰ってから作ったカップケーキが潰されるんじゃないかと必死で鞄を守り、そのせいで髪や制服は大変な事になっていた。
朝練に出てる人って、凄いパワーと精神力の持ち主かも。
若干乱れた髪を駅のトイレで手直ししてから出れば、改札口の手前で見覚えのある姿を見つけて駆け寄った。
『城戸くん、おはよう!』
桜「伊吹さん?おはよう。あれ、随分早めの登校だけど今日は芸術科は何かあるの?」
声を掛けた私を見て驚いた城戸くんが、さり気なく人混みから守るように腕を伸ばして同時に改札口を出た。
なんか、紳士だと思った。
『別に何もないけど···これ渡したくて。この前いろいろして貰ったお礼というか···カップケーキ作ったから、朝練終わってからでも食べて?』
カサリと音をさせながら手渡し、味の保証はないけど···と付け足す。
桜「味の保証?じゃあ、もしかして伊吹さんの手作り?」
『···うん。嫌だったら捨ててくれても構わないから、って、えぇっ?!』
捨てられたらちょっと悲しいけどとか思いながら城戸くんを見れば、既に開封された袋からカップケーキを取り出して食べていた。
桜「俺さ、普段は妹に作ってあげる事が多いから、誰かの手作りって嬉しいし、それに美味しいよコレ」
歩きながらモグモグと食べる城戸くんと並んで足を運びながら、呆気に取られて全部食べ終わるのをただ眺めていた。
ん?そう言えば···
『ねぇ、城戸くんって妹がいるんだ?』
桜「いるよ?10歳離れた妹。どうしても子供の頃から妹が欲しくて、神様やサンタクロースにずっと頼んでたから可愛くて仕方ないんだよね」
神様やサンタクロースにお願いしてたとか、城戸くんって意外に···カワイイかも?
『そっかぁ、歳の離れた妹さんなんて羨ましいかも。私はひとりっ子だから』
桜「じゃあ、今度ウチに遊びに来る?妹もきっと、伊吹さんみたいなお姉さんが遊んでくれたら喜ぶと思うから」
『城戸くんの家に?!私が?!』
桜「ダメ?」
いや、そうじゃなくてですね···
まぁ···いっか、な?