第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
菅「あ、縁下が戻って来た・・・」
スガさんの声にピクリと反応しながらも、オレは体育館に入って来る力を見ないでいた。
縁「大地さん、遅れてすみませんでした」
澤「いや、木下達から話は聞いてる・・・それで、城戸さんは?」
縁「彼女は、その・・・いろいろあって今日はどうしても帰りたいって言うので帰しました。すみません、俺の勝手な判断で・・・」
・・・紡が帰った?!
腹痛いとか、具合悪いとか、そんなのオレ聞いてないぞ??
澤「わかった、いいよ。縁下が承諾してしまうほど、って事なんだろう?」
縁「まぁ、はい・・・結構。でも、明日の朝練はちゃんと出るからって言ってました」
澤「そうか・・・」
その日の練習は、どうしてか何かと紡の事が頭ん中をチラついて・・・
大地さんが指示するどんな練習メニューも上手く行かず、オレはイラついていた。
翌朝、いつものように門の前で待っていると、いつものように影山と紡が歩いてくるのが見えて来た。
ただ、いつもと違ったのは・・・
影「西谷さん、はよッス」
「おう!2人ともおはよう!」
『おはようございます・・・あの、私・・・先行きますね・・・』
え?
ほとんど目も合わせずに言って、紡は走って行ってしまった。
何でだ?
ここから体育館までの往復は、オレ達の唯一の・・・一緒に歩ける距離だぞ?
・・・なんでだよ?
紡の様子が変だったのは、それだけじゃなかった。
朝練が始まっても、放課後の練習が始まっても・・・なんかぎこちなくて。
いつもなら、ふと視線を感じて振り向けば・・・そこには紡がいて。
小さく手を振ると、ニッコリと笑い返してくれてたのに。
それも、ない。
どっちかって言うと、ほとんどオレとは会話もなく、何かと忙しそうに走り回っていて。
オレ以外とは、話・・・してんのに。
今だってそうだ。
指に違和感を感じたとかいう月島の手当をしながら、笑って何かを話している。
それに、月島だってそれに笑い返しながら答えている。
だいたい月島のあんな顔、ほとんど見た事ないぜ?
帰りも、黙ったままで歩いているだけだったりするのに。
テーピングを巻きながら月島と向かい合う紡を見て、胸の奥がチリチリと痛む。