第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
『そんなこと・・・』
縁「いや、あるから!オレ、今のダッシュだけで練習に入れそうだし」
額に浮かぶ汗を腕で拭いながら、縁下先輩が笑った。
縁「で、その目に入ったゴミの原因ってさ?もしかして西谷とケンカでもしたの?」
『それは・・・ケンカなんかじゃ、ないです』
縁「じゃ、どうして?」
1番でいたかったのに、違ったから・・・なんて、言えないよ・・・
縁「あの、さ?誰かに話せばスッキリする事も、あると思うんだ。ちなみにオレは、口は堅い方だと思うけど?」
隣同士、駐車場の壁に寄り掛かる。
縁下先輩に話せば、スッキリするんだろうか。
でも、もしそれが迷惑になるような事だったら・・・
縁「どうかな?・・・オレってそんなに信用出来ない?」
『別にそういう訳じゃ・・・ただ・・・』
何を、どう話せばいいのか自分でも分からなくて・・・
考えれば考えるほど、苦しくなる。
またひとつ、涙が零れていく。
縁「泣くなって・・・頭ん中グチャグチャかも知れないけどさ、ゆっくりでいいから、話してみて?」
ポンッと頭に手を乗せられ、それが西谷先輩だったらと思うと・・・とめどなく涙が溢れて来た。
『もう・・・西谷先輩・・・が、何を考えてる、のか・・・分からなくなっちゃって・・・』
縁「・・・西谷が?」
『はい・・・』
それから後は涙と嗚咽で途切れながらも、さっき聞いてしまった事や今まで感じていた事などを聞いて貰い、落ち着いた頃にはそれなりの時間も経っていた。
縁「1番、ねぇ・・・」
『ホントは、そんな事に拘ってるのはおかしいって、分かってるんです。でも、あんな風に堂々と胸張って宣言してるのを目の当たりにすると・・・私って、必要ないんじゃないかって・・・』
正面からぶつかる事が出来たら、ちゃんと分かるのかも知れない。
だけど、ぶつかってお前なんか必要ないって言われると思うと・・・怖くて、それも聞けない。
もし・・・もう面倒だ、とか言われたら。
・・・立ち直れない。
ヒリヒリと痛む目元を押さえながら、私は俯くしかなかった。