第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
『···お願いします』
下にいる人物にそう声を掛けて、子猫を抱きしめる。
「いいよ、じゃあ···はい」
足元に鞄を置き、両手を広げて微笑んでいるけど···猫ちゃんをって、コトだよね?
『猫ちゃん、ケガしないように気をつけてね?』
チュッと子猫の頭にキスをして、喉元を撫でる。
『ほら、怖くないよ···あのお兄さんのところに、そっと降りていくんだよ?』
にゃ~ん···と細く鳴き声を上げながら、子猫は私の顔をジッと見つめてくる。
『大丈夫、ちゃんとあのお兄さんが受け止めてくれるから、ね?ほら、頑張って?』
片手で自分の体を木に支えつけながら、子猫をゆっくりと下に下ろしていく。
「もうちょい···いいよ、離してみて」
言われるままに子猫の体を離すと、一瞬ピョンっと子猫が跳ねて、下にいる人物の腕の中に収まった。
『良かった···無事に降りれて』
「よしよし、頑張ったね。じゃあ、次は君の番だ」
『わ、私?!』
「そう、君の番」
フッと笑いながら子猫を離し、私を見上げながら両手を広げる。
『わ、私は大丈夫!ひとりで降りれるから、お構いな···わぁっ!!』
掴んでいた場所から手が滑り、崩れたバランスを取ろうと体を動かして···
「危ないっ!」
私は···落ちた···けど。
『痛···く、ない』
あれ?
私、そう高くはないと言っても木から落ちたのに?
落ちた時の衝撃に備えて閉じていた目を、ゆっくりと開ける。
開けていく視界には、今日の青空と同じ色の···シャツ。
それから、何だか落ち着く···香り。
その香りをもっと手繰り寄せたくて、思わずそっと顔を押し当てる。
「あの、さ?···ダイタン行動してる自覚、ある?」
クスクスと笑いながら頭の上から掛かる声にハッとして、思わず顔をあげる。
至近距離で見る···整った、キレイな···顔。
ほんの数秒だけ見つめあって···
見つめ···あっ、て···?
『う』
「う?」
『うわぁぁぁ!!!!!!』
思い切り叫びながら、ドンっとその胸元を押し返しながら自分の体を勢いよく引いた。
「だから危ないって!」
離れたばかりの胸元に、今度は同じように引き戻される。
しっかりと抱きとめられた私の体は、尋常じゃない速さで鼓動が鳴り響く。
き···聞こえてたら、どうしよう。