第37章 桜満開の心 ( 伊吹 梓 )
それは···出会いからして、最悪だった。
高校の入学式から数日。
特に部活動なんて入ってない私は、のんびりと学校までの道を歩く···ハズだった。
『あ~もぅ!どうしてこんな事に!』
学校まであと少し···という所で、どこからか聞こえてくる猫の鳴き声に気が付いて辺りを見回した、までは良かったんだけど。
まさか、木の上から降りられなくなってる子猫を見つけてしまうとは。
何とかして助けてあげたいけど···言葉が通じるはずもなく途方に暮れる。
ここはやっぱり···やるしかない、かな?
キョロキョロと周りを見て、人がいない事を確認して···今なら、大丈夫でしょ。
近くのベンチにカバンと制服のジャケットを脱ぎ置き、シャツの袖を捲って、解いた制服のネクタイで長く伸ばした髪を軽く束ねる。
よし、準備オッケー!
木登りなんてやった事はないけど、ま、何とかなるでしょ?
ただよじ登って、子猫を助けて降りてくるだけなんだから。
···なぁんて息巻いてた、少しだけ過去の自分にアドバイス出来るなら。
降りれなくなるからやめときなさい!
そう言いたい。
『猫ちゃんを助けたまでは、良かったんだけどなぁ。ホント、どうしよう···』
ミィミィと鳴く子猫を抱きかかえたまま枝にヘタリ込み、途方に暮れる。
『降りるのがこんなに難しいだなんて、知らなかったなぁ』
私の嘆きも虚しく、子猫がゴロゴロと喉を鳴らす。
『キミは呑気だね、恩人がこんなに困ってるって言うのに』
「そう言うキミも、結構···呑気なんじゃないかな?」
誰ッ?!
突然掛けられた声に、辺りを見回す。
「下だよ、下。キミと同じ高さにいるわけないだろう?」
···下?
子猫を抱いたまま視線だけ下を見れば···
私と同じ学校の制服?
しかも、あのネクタイの色は···同じ学年じゃない?
「降りられないみたいだね、手を貸そうか?」
『べ、別に平気だし』
自分で登っといて降りられなくなったとか、言えるわけないじゃん。
「そう?でも、このままじゃ···遅刻、するんじゃない?」
···遅刻?
入学して早々に遅刻とか、それは嫌かも。
でも、助けられるのも···恥ずかしいよ!
ひとり木の上で悶々と考える。
やっぱり、助けて貰うのはムリ!!
だけど遅刻はもっとムリ!!!