第36章 そして朝日はまた昇る ( 城戸 桜太 )
主任にああ言ったものの、普段からトレーニングを続けていて良かった···とか、考えてる場合じゃないな。
さほど息も上がらず無事に病室について診察を初め、ネブライザーの薬の量と点滴の薬剤の確認をして自ら針を刺す。
「すぐ呼吸が楽になるからね。チクッとしたの我慢出来てお利口さんだ。はい、これはご褒美だよ?」
胸ポケットから、男の子が好きそうなヒーロー物の1枚のシール用紙を取り出し、針をしていない方の手に持たせてあげる。
「お母さんが来るまでは、ここにいてあげるから心配しなくていいよ」
小さな子供にそう言って、ベッドサイドのイスに腰掛けた。
幸い、大事に至ることはなく処置を終えることが出来て、主任の連絡により駆けつけた母親に状況の説明や処置の内容、現在の様子などを説明した。
「すみません···城戸先生、ありがとうございました」
ふかぶかと頭を下げる母親に俺も頭を下げながら、容態が落ち着いて眠りについた子供の頭をそっと撫でる。
「お昼ご飯はちゃんと食べれたようですが、もしも咳き込んで吐き戻す事があればコールを押して下さい。特に他で急患が出なければ、ナースセンターにいますから」
日勤のナースにも同じ事を伝えて、なるべく細やかに様子を見に来て貰えるように指示を出して病室を後にした。
ナースセンターで仕事をこなしながら、ふと気が付けば時計の針は夕方を指していた。
どうりで小腹が···いや、そう言えばあのまま食堂に弁当箱を置きっ放しのままだ···
そう思い出すと、今日はお昼ご飯もままならなかった事にも気が付き、食堂へ行って置き去りにした弁当箱を回収しなければとパソコンに向かってため息を吐いた。
「お疲れちゃん。あなたの心の恋人から、お届け物でーす」
聞きなれた怪しげなセリフを吐く声に振り返れば···
「また立花先生ですか···」
立「またってなんだよ、またって。ほら、弁当箱置いてっただろ?」
食べかけのままだったはずの弁当箱がきちんと包まれていて、俺のデスクにポンっと置かれる。
「すみません、わざわざ。ちょうど今これを思い出して回収しないとって思ってた所です」
立「ナイスじゃんオレ!そしてこっちは差し入れな?主任にも渡してきたから」
ガサリと音をさせながら売店の袋を手渡され、なんですか?と中を覗く。
立「疲れた時には甘いもの!ってやつ?」