第3章 小さな手のひらに大きな愛を (西谷 夕 ・特別番外編)
~紡 side~
うわぁ・・・掃除当番で遅くなっちゃった。
みんなもう集まってるよね。
ダッシュで体育館まで来て、シューズを履き変えようと立ち止まると・・・誰かの叫びが聞こえてきた。
田「そうだぞノヤ!・・・お前の1番はお嬢だろ!」
田中先輩?他にも誰か・・・
西「なんで、紡が1番じゃなきゃダメなんだ?」
胸が・・・急加速するのが、自分でもわかった。
私・・・1番じゃないんだ・・・
そう思うと、胸が締め付けられる様な苦しさが訪れる。
・・・私、西谷先輩の彼女・・・じゃなかったっけ?
もしかして、私の勘違い・・・とかじゃ、ないよね?
西「オレの1番は、誰がなんと言おうと潔子さんなんです!紡は1番なんかじゃないんです!!」
何度も西谷先輩の口から繰り返される言葉で、次第に視界が滲んで来る。
やっぱり私、誰とどう付き合っても・・・1番には・・・慣れないんだ・・・
次々とこぼれ落ちる涙が、頬を伝って足元に染みを作って行く。
体育館に入らなきゃ・・・そう思うのに、足が進まない。
縁「あれ?城戸さん、中に入らないの?」
不意に掛けられた声に、思わずそのまま振り向いてしまう。
縁「え・・・」
縁下先輩の驚く顔を見て、慌てて横を向いて目を擦った。
『あの、私・・・教室に忘れ物したみたいなので取りに行ってきます』
縁「ちょっと待って!城戸さん!」
縁下先輩の言葉も聞かず、私は駆け出した。
教室に忘れ物なんて、そんな物もちろんない。
ただ、あの場所にいるのが辛くて。
私は・・・逃げた。
どうしていつも、こんな風になっちゃうんだろう。
岩泉先輩の時も、西谷先輩も・・・同じ。
なりたくても、なれない・・・誰かの1番・・・
ひたすら走って、職員用の駐車場まで来て足を止める。
縁「城戸さん!・・・や、やっと追いつけた・・・」
私を呼ぶ声に振り返ると、息を切らせた縁下先輩がいた。
『ど、うして、縁下先輩が・・・』
縁「どうして?って。そんな顔見たら、追いかけない訳には行かないだろ」
言われて、もう1度横を向き、着ていたシャツで顔を拭った。
『別にこれは、目にゴミが入っただけですから
』
縁「・・・じゃあ、そういう事にしておくよ。ってかさぁ、城戸さんて走るの早いね」