第36章 そして朝日はまた昇る ( 城戸 桜太 )
「またそんな微妙な顔をして···」
「してませんよ、そんな顔は。それで、立花先生はなんて?」
「伝言を預かろうとしたんですけど、直接お話がしたいから折り返しの連絡が欲しいそうですよ?」
「分かりました。立花先生に院内電話をしてみます」
···とは言ったものの、気が重い。
そういう時の立花先生の用事といえば、大抵どうでもいいような事が多い。
けど、もしもって事もあるから···
はぁ···と大きな息を吐いて、白衣のポケットから院内用の電話を取り出し、最早かけ慣れてしまった番号を押す。
立ー は~い!あなたの心の恋人、立花で~す ー
···うわぁ、どうでもいい方の用事だなコレは。
「城戸です···看護主任に立花先生から連絡があったと聞いたので連絡させて頂きました。いま、診察中ですか?」
立 ー ん~、大丈夫。次の患者さん呼ぼうと思ってたトコだから平気 ー
「そうですか。それで、ご用件は?」
立 ー そう、それ!あのさ城戸先生、今日のランチタイムだけど、大丈夫だよね? ー
「ランチって···俺そんな約束、してましたっけ?」
してない事は分かってるけど、一応···確認のために聞いてみる。
立 ー 約束?してないけど、出勤してるんだから一緒に食べようよ~!ね、いいでしょ?オレと城戸先生は心も体も一心同体ってね! ー
「切り離してください、今すぐに」
立 ー そんな···酷い···オレを捨てるのね··· ー
捨てるって···そもそも拾いたくもないですよ。
「とにかく、確実なお約束は出来ません。病棟で急変があったりしたら···」
立 ー そん時はオレも駆け付けるからさ?ね、ひとりで食べるの寂しいじゃん? ー
···この人は、ホント···強引というかなんというか。
「ハァ···分かりました。何もなければ、の話で宜しければお付き合いします」
立 ー お付き合いって···オレにはそっちの趣味はないんだけどなぁ··· ー
「俺にもありませんから!じゃ、そういう事で失礼します!」
ピッ!と勢いよく通話を切って、乱雑にポケットに院内電話を突っ込む。
「なんだかんだ言って、城戸先生は立花先生の言うこと聞いちゃうんだから」
クスクスと笑う看護主任に、またひとつ大きな息を吐いた。
「良かったら、主任もご一緒しませんか?」