第36章 そして朝日はまた昇る ( 城戸 桜太 )
「おーたせんせー、おはよぉございます!」
「おはよう。昨日はちゃんと早く寝たかな?」
「うん!ちゃんと寝たよー!」
「お利口さんだ。じゃあ、モシモシするからぽんぽん見せてね?」
最近入院病棟にも導入されたタブレット端末の電子カルテをチェックしながら、可愛い入院患者の朝の回診をこなして行く。
「うん、大丈夫みたいだね。朝ごはんもちゃんと食べれてるし、もう少ししたら点滴かな?」
「えぇ···おーたせんせーがやってくれるならがんばるけど、ほかのひとだったら、いたいからやだなぁ」
「大丈夫、今日は看護副主任が病棟にいるから痛くないよ」
あの人は注射打つの上手みたいだから、子供達が痛がって泣いてるのを見た事がないし。
「ふくしゅにんだったら、へいきかも!でも、おこるとこわいけど」
「そうだね、先生もたまに怒られる時あるから知ってる」
視線を合わせて子供と一緒に小さく笑っていると、背後から強調された咳払いが聞こえてきて。
「誰が、怖いんですって?城戸先生」
出た···副主任···
「アハハ···えっと、なんの話だったっけなぁ···なんて」
「全く、私が怒るのは城戸先生がいつまでも子供達と遊んでるからですよ?お分かりですか?」
「はい···すみません、気をつけます」
後はお願いします、と伝えて子供の側から離れる。
「ふくしゅにん、おーたせんせーのこと、あんまりおこらないでね?おーたせんせー、ないちゃうよ?」
「城戸先生が、泣く?···それはそれで、ちょっと見てみたいかも···なんて」
「えぇ···俺は簡単には泣きませんよ」
「あら、じゃあ妹さんがお嫁に行ってもですか?」
「それは泣きます···大泣きです。弟に弄られるほど、溺愛してますから」
「あらまぁ。ワイドショーにお世話になるような事はしなきで下さいよ?」
「しませんよ!」
頭の上にハテナマークをチラつかせた子供を前に、大人達が笑い合う。
そんな子供の頭を撫でて、病室を後にした。
残りの患者の回診を終わらせナースセンターに戻ると
、看護主任が妙な笑顔で俺に手招きをして来た。
「主任、なんですか?おかしな手招きなんかして」
「さっき立花先生から城戸先生宛に内線電話がありましたよ?」
立花先生は···確か今日は外来に出てるはずなのに。