第36章 そして朝日はまた昇る ( 城戸 桜太 )
『行ってきます、桜太にぃ』
「うん、行ってらっしゃい。今日もケガのない一日を元気に過ごすんだよ?」
同じようにキュッと抱きしめ返して、紡の頭にぽんっと手を乗せる。
『じゃ、影山待ってるかもだから行くね?桜太にぃもお仕事頑張ってね!』
「もちろん。行ってらっしゃい、紡」
これは紡が小さい頃からずっと続けて来た、行ってらっしゃいの約束事。
両親が留守がちだった我が家の、ある意味で決まり事のような···
俺や慧太も、紡が産まれるまでは母さんが同じようにしてくれてたから。
紡が保育園に通うようになってからは、俺も慧太も母さんの役目を取り合うように行ってらっしゃいのハグを紡にだけしてたっけ。
父さんも母さんも、今は海外赴任でいない。
だから今は、さも当然のように俺が紡に。
俺が当直の日は、慧太がやってるみたいだけど。
そこはちょっと、なんだかモヤッとする。
当直の時は···俺は···立花先生のお守りをしているというのに···
玄関先まで出て見送り、少し離れた角で大きな人影と、小粒な人影が並んで歩き出すのを確認して家に入る。
慧「デレッデレの顔しちゃって、まぁ」
「いたのかよ···いたなら紡の見送りくらい、」
慧「いーのいーの、オレは帰りに出迎えてやっからさ?」
出迎えて···?
「あぁ、今日は休みって言ってたっけ。じゃ···ゴミ捨てよろしく。ちなみに今日はビンと缶の日、キッチンに纏めてあるから」
慧「はいはい、っと。で、夕飯どうする?オレ今夜、当番だからよ」
夕飯か···今朝は和食で纏めたし、慧太が得意分野となると···
「パスタ···とか。サラダも付けて、スープとかは慧太に任せるよ。デザート忘れるなよ?紡が拗ねるから」
慧「だな。買い物がてらケーキ屋にでも顔出すわ。あそこのパート従業員、オレのお得意様の上客だし?ってね」
···ホストかお前は。
「それじゃ、俺も支度したら出るから。家の事は頼むね。今日は天気もいいし、時間があったら窓拭きとか」
慧「あーハイハイハイハイ!分かったから早く支度して可愛い入院患者の所に行ってチョーダイ!」
バシバシと背中を叩かれながら廊下を進み、出勤する為の支度をしに部屋へと戻った。