第35章 ファインダー越しの恋 ( 澤村 大地 )
放課後になり、お気に入りの一眼レフを抱えて校内をうろついてみる。
校舎の影の草花を撮ってみたり、日向ぼっこをする野良猫に、そっとシャッターをきってみたり。
撮れた写真を確認しながら歩き、ふと気がつけば···いつの間にか男子バレー部が使っている体育館の前まで来てしまっていた。
耳を澄ませば、中からはボールが弾む音、シューズがキュッと鳴る音···そして···
「山口!しっかりボール見てレシーブしろ!」
···これは、誰の声だろう?
またボールの音がして、今度は···
「ナイスレシーブ!紡!」
あ、これは澤村君の···え?
いま、ナイスレシーブ···紡!って言わなかった?!
確か今朝、澤村君は放課後の練習で紅白戦をやるって言ってたけど···あの子、マネージャーって言ってたよね?
思わず駆け寄り、開け放たれた扉からこっそり中を覗く。
···いた。
大きな男子に混ざって、小さな人影がポツリと見える。
今朝見かけた時とはまるで別人のようなスタイルで、髪は引っ詰めて結び、男子に混ざって短パンにTシャツ姿でコートに入ってる。
澤村君が言ってた、この前とは違うってのはこの事だったの?
でも···凄い···
女の子なのに、反対側のコートにいる菅原君と同じように、自分がいるコートの人間にも的確に指示を出して、一緒にプレーしてる。
手に汗握るような光景に、持っていたカメラを構えてしまう。
ファインダーの中でも、その小さな姿は輝いていて···何度も、何度も夢中でシャッターを押していると、急にファインダーの中がグリーン1色に変わりカメラから目を離す。
武「こんにちは、吉岡さん。もし良ければ、中に入って見学しませんか?」
『武田先生?!···あ、ご、ごめんなさい、私···勝手に···』
武「構いませんよ?澤村君から、もしかしたらアナタが来るかもと聞いてますし、どうぞ中へ。それに、いまのままだと、ほら···ちょっと盗撮チックで、怪しげですから」
盗撮チック···って。
ほんわかとした笑みを浮かべながら言う武田先生に負けて、お邪魔します···と中へ入れてもらう。
改めて堂々として見てみれば、前にはいなかった、ちょっと怖い感じの大人の人がいて、噂に聞いていた外部コーチがその人なんだと分かる。
さっきの声は、この人だったんだ。