第31章 Platinum ( 木兎光太郎 )
「木兎君?前から何度も言うけど、ここは保健室です。ノックはもっと静かにね?借金取りじゃないんだから。それからドアも返事が来てから開けること。わかった?」
「お、おぅ」
会話頭にいきなり怒られ、さっきまでの勢いが萎んでいく。
「それで、木兎君はここにどんな用事で来たの?···見るからに元気そうだから、体調不良じゃないわね?捻挫···でもなさそうね。廊下走ってたし」
「オレ、つーちゃんセンセーに聞いて欲しいコトがあるから来た!」
「聞いて欲しいこと?わかった、じゃ···とりあえず保健室利用届に必要事項記入してね」
はいコレね、と渡して来たつーちゃんセンセーの指に···
〝 キラリと光る指輪 〟
「つーちゃんセンセー、これ」
思わず手を掴み、それを指させば。
「あぁ、これ?やっぱり養護教諭はしちゃダメよね···」
そう言ってつーちゃんセンセーは、ちょっと照れ臭そうに笑った。
「結婚、してたのか?」
キラリと光る物から目を離せずに言えば、またも照れ笑いを浮かべながらつーちゃんセンセーは頷く。
「去年ね···そして今、ここには新しい家族もいるの」
そっと撫でて見せる場所は、どことなくふっくらとした丸みがあって。
その仕草ひとつひとつが、指輪のようにキラキラとしていて。
砕けるの、オレだったじゃん···あかーしの言う通り。
そんな気持ちが浮かんだ。
「あ、それはいいとしてさ?木兎くんの話したい事って?」
イスに座りながら言われて···オレは···
「いや、なに話すんだか忘れた!なんだっけ?!ま、いっか!」
頭をガシガシ掻きながら、笑った。
「まったく、調子いいわねぇ?そんな事して部活サボろうとしてもダメだからね?主将なんだから」
「ヘイヘイヘーイ!そう!オレは主将!だからブラブラしてる時間はないんだった!んじゃなつーちゃんセンセー!」
来た時と同じように慌ただしく廊下を駆け出す。
「こら!廊下は走らない!」
保健室の中からつーちゃんセンセーが叫ぶ。
あかーし、オレはいまわかった!
オレは···つーちゃんセンセーに···
“ 恋 ”
してた!
それだけ分かれば、いっか!
これが恋ってヤツなのか!
こんな···チクリと胸が痛むのが···恋って、やつなんだな。