第30章 星に願いを ( 城戸 桜太 )
スマホを出して構わず何度もシャッター音を鳴らす主任も、とても楽しそうに角度を変えながら周りをウロウロとし始める。
「分かりました、主任。次に出勤した時に手作りクッキーで」
「乗った!···さぁさぁ、立花先生?お利口さんにお仕事しましょうねぇ~、はい、城戸先生から離れて下さい?」
立「これから城戸先生と愛を深めようと思ってるのにィ~」
どうしてそんな物を深めな···
「ちょっ、立花先生?!白衣捲らないで下さ···シャツの中に手を入れないで!」
半ば強引に振りほどきながら距離を保ち、乱れた衣服を直す。
「惜しい事を···もう少し眺めてたら癒しのワンショットがスマホに収められたのに!」
いや、主任···ホント、そういうのやめましょうよ。
「立花先生も悪ふざけが過ぎますよ。ここは病棟で、今はお互いに当直勤務中です···子供達が起き出したらどうするんですか···まったく」
立「じゃあ···子供達が寝静まってからなら?」
「お断りします。生憎と俺は、そっちの趣味はありません」
ピシャリと言えば立花先生もオレだってそっちの趣味はないからね?と笑いだした。
本当に、いい性格していらっしゃる···
念の為、仮眠室に入る時間があったら···鍵はしっかり掛けておこう。
うん···念の為に。
「そうだ、城戸先生?少し早めですけど、休憩どうぞ?今のところ子供達はみんなよく寝ているようですし、いつ何があるか分からないのが小児科病棟ですから」
「そうは言っても···」
「緊急事態が起きたらすぐに呼び戻しますから、休める時に休憩して下さいな?」
休める時に、か···それもそうだな。
「分かりました。じゃあ、何かあったらすぐ電話鳴らして下さい。とりあえず···自販機に寄ってから屋上に出てますから」
立「屋上?こんな時間に?」
「こんな時間だから、ですよ」
簡易ロッカーの網棚から、ごくたまにしか口にしない箱をチラリと見せて、それをポケットに入れた。
立「珍しい事もあるもんだ。城戸先生が喫煙とか」
「ほんの少しだけ、ですけどね。息抜きと、それからせっかくの七夕の夜だから星でも見上げて来ようかと」
じゃ···と言い残して、明かりを落としてある長い廊下を静かに歩き出した。