第30章 星に願いを ( 城戸 桜太 )
「城戸先生、何かいい事でもありました?」
ナースセンターで電子カルテをチェックしていると、不意に背後から声を掛けられた。
「いえ、特には。どうしてですか?」
「いつにも増して、キラキラオーラが溢れ出てますよ?」
「なんですかそれは···立花先生みたいな事を言うのやめて下さいよ、主任?」
楽しそうに笑う看護主任にそう返せば、主任はキラキラオーラはキラキラオーラですよ、とまた笑った。
「そう言えば、こんな七夕の夜に当直なんて大丈夫です?妹さん、寂しがるんじゃない?」
「大丈夫ですよ、そこまで子供じゃないですから」
···とは言ったものの。
毎年必ず一緒に過ごしていた日でもある訳で。
紡が寂しがると言うよりは、俺が寂しいよ。
こんな世間一般がイベント事で湧き上がってる時に、慧太が紡を独り占めすると思うと···ちょっと、慧太にイラッとするのもあながち間違いでもなく。
とはいえ、当直当番は順が決まった物だから仕方ない。
変わってあげる事は出来ても、変わって貰うのは余程の用事でもない限りは難しい。
そして今夜の当直のパートナーはと言えば···
「···立花先生、なんだよなぁ」
立「ため息混じりに名前を呟くほど、城戸先生はオレの事が大好きだとは···オレも隅に置けないなぁ、ウンウン」
うわっ、出た···
「立花先生、気配を消して近寄るのやめてくださいと何度も言ってますよね?」
立「ヤダなぁ、城戸先生。オレの事を愛してるなら、気配くらい感じ取ってよ」
「気持ち悪いこと言わないで下さい。立花先生に対して愛はありませんから」
立「酷い···オレの事は遊びだったなんて···」
体をくねらせながら言う立花先生に軽く一瞥を送り、また息を吐いた。
立「無視するほど嫌いになったの?···だったら···」
「っと···た、立花先生?!何してるんですか!!後ろから抱き着くのやめて下さいよ!仕事が進まない···」
イスに座ってカルテチェックをするオレの背中に、ズシリと伸し掛るように体を寄せる立花先生に言えば、その張本人は構わずグイグイと重さを重ねてくる。
立「仕事中じゃなかったら、いいの?」
「ダメに決まってるでしょう!···主任も笑ってないで助けて下さい!」
「どうしよっかなぁ?」