第30章 星に願いを ( 城戸 桜太 )
総合受付の前まで1度降りて飲み慣れた缶コーヒーを買えば、ガシャン···と大きな音に肩を竦ませる。
遠慮がちにボタンを押しても、出てくる勢いは変わらないのか。
ひとり薄笑いをして振り返れば、受付の横には小児科外来に来た子供達用に笹飾りが用意されているのが目に入る。
そう言えば昨日、子供達が母親といろいろ書いては下げていたな。
何気なく色とりどりの短冊を眺めてみれば、そこには子供らしいお願い事が書いてあって。
ハンバーグがたべたい、だとか。
びょうきがなおりますように、だとか。
パパとママとずっといっしょにいたい、だとか。
おうたせんせいのおよめさんになる···ん?
···う~ん、これは見なかったことにしようか。
しかしながら、どれもこれも可愛らしい願い事ばかりで。
屋上へ行くと言ったのに、その短冊達に足止めされながら缶コーヒーを開けた。
七夕の短冊か···
俺や慧太も、子供の頃は何度も同じ願い事を書いたよな。
〖 いもうとがほしい 〗
それは願いが叶うまで、毎年ずっと同じで。
そんな願い事が叶ったんだから、きっとこれを書いた子供達の願い事も叶うよ。
···お嫁さん以外ね。
あれを書いた子にも、どうか煌めく星が辿り着きますように。
そんな願いを込めて、俺もまだ何枚かある短冊から一枚取り···ポケットのボールペンで文字を並べて行く。
〖 子供達に、夢のある夜を 城戸 桜太〗
誰かに見られたら恥ずかしいから、なるべく高い所につけようか。
カサカサと音をさせながら、短冊を結び付ける。
巡回中の警備員に声を掛けられて、軽く挨拶を交わしながら缶コーヒーの残りを飲み干しダストボックスへと缶を落とした。
チラリと時計を見て、そろそろ戻るか···と息を吐く。
願い事が叶うなら、穏やかな夜を。
そう小さく呟いて、明かりを落とした廊下を···また、歩き出した。
~ END ~