第29章 サクラ色の香りに想いを寄せて ( 岩泉 一 )
及「ズールーイー!オレも仲間に入れてよー!ね?紡ちゃん、いいでしょ?!ね?ね?」
···ね?って私にお願いされても。
でも、滅多に午前中だけで部活が終わるなんてないから、ここで追い返すのもとチラリとハジメ先輩を見上げた。
岩「お前は甘いんだよ···あんまり及川を甘やかすな」
『でも、せっかくの桜まつりだし追い返したら及川先輩もかわいそうなんじゃ?』
岩「紡がそう言うなら···仕方ねぇ」
やった!と及川先輩が大げさにバンザイをして喜んで、そのままギュッと私に抱き着いた。
岩「離れろクソ川!!···お前も簡単に及川に捕まってんじゃねぇよ。ほら、コッチ来い」
『あはは···ゴメンなさい』
私を及川先輩の腕から解き、腹減ったし行くぞ?と前を歩き出す。
及「腹へり岩ちゃんはすぐ怒るから、オレ達も行こうか?」
パチン!と音がするようなウインクをして、及川先輩が背中を押した。
少し前を歩くハジメ先輩の背中をジッと見る。
手···とか、繋いだりしたかったな。
なんて。
普段からそんな事ないから、きっと言ったら子供かよ!とか言われちゃうんだろうなぁ。
お互い部活に忙しくて、デートらしいお出かけなんて殆どないし。
でもこれが、私達らしい時間の過ごし方···なのかも。
それでも···一緒にいたいと思えるから。
及「紡ちゃんはさ、ほんっとに岩ちゃんの事ばっかり見てるよね?」
『えっ?!』
及「オレは岩ちゃんが羨ましいよ。紡ちゃんを独り占め出来てさ」
『別にそんな事は、』
及「ある!絶対ある!なのに岩ちゃんてば、ひとりでドンドン先に行っちゃうし!ね?もっと桜を見ながらゆっくり歩きたいよね?ね?!」
爽やかに笑いながらグイッと顔を寄せる及川先輩に、
思わず体を引く。
『ち、近いですよ及川先輩。それに、ハジメ先輩も部活で忙しいのに時間作ってくれてるから、私はそれだけでいいんです』
本当なら、午前中だけで部活が終わったんだから体をゆっくり休めて欲しいとは思う。
だけど、少しでも会える時間があるなら会いたい···って言うのも、私の気持ち。
及「またカワイイこと言っちゃって!じゃあ···今日は特別に及川さんが小さな幸せをあげようかな?」
『なんですかそれ?』
及「おーい!岩ちゃん待ってよ!」