第29章 サクラ色の香りに想いを寄せて ( 岩泉 一 )
及「おーい紡ちゃん!お待たせ~!」
少し離れた所から名前を呼ばれて、大きく手を振りながら走って来る相手に顔を向ける。
逆光のせいで眩しく感じて、つい···目を閉じた。
《 明日の練習は午前だけだから、部活が終わったら、待ち合わせしよう 》
昨日貰ったメールに書いてあった場所で、私はこれから後の時間をドキドキしながら待っていた。
普段は制服か、部活終わりのジャージ姿ばかりを見せていたから洋服選びとか、髪やメイクも気合いが入った。
···変、じゃないよね?
ショーウィンドウに映る自分の姿を何度も確認して、風に遊ばれた前髪をその都度直す。
及「到着!っと···待った?」
柔らかそうな髪をかき上げながら笑う眩しい笑顔に目を細めながら、さっき来たばかりですと返す。
及「おっ、今日は可愛い服着ちゃって!これは及川さんの為かなぁ??」
『そういう訳じゃ···』
会う度に可愛いと連発する及川先輩に苦笑を見せながらも、頑張って選んで良かったな、と胸を撫でた。
及「んじゃ、さっそくお花見デートと行きますか!って言っても、オレが部活終わりだからこんな姿で悪いんだけど、さ?」
当たり前のようにスマートに私の手を繋ぎながら笑う及川先輩は、どんな時でもにこやかに微笑んでいて。
例えそれが部活終わりの姿でも、周りの女の子達の視線を独り占めするほどの輝きを放っていた。
及「それじゃ、お邪魔虫に見つかる前に···」
「誰がお邪魔虫なんだ?」
及「そりゃもう、岩ちゃんに決まって···って、岩ちゃん?!···お早いお着きで···」
岩「何がお早いお着きで、だ!なんでお前がここにいる?それから紡の手を離せ。さもなくば···」
及「わぁー!暴力反対!」
ハジメ先輩の言葉に、及川先輩がパッと私から手を離す。
岩「ったく、油断も隙もねぇ。紡、遅くなって悪ぃな」
『私もさっき着いたばかりですから』
岩「そっか、なら良かった」
及「ちょっと!及川さん放置して二人の世界に入らないでよ!」
もぅ!と頬を膨らませた及川先輩が、私達の間に無理やり割り込んだ。
及「だいたいさ!岩ちゃんズルいよね!オレに内緒で紡ちゃんと桜まつりに行こうとか企んでさ!」
岩「お前にいちいち報告する義務はねぇだろ!」