第26章 冬の温もり ( 牛島 若利 )
『でも、今はまだ···言わない事にする。頑張って夢のカケラを掴むことが出来たら、その時に牛島君に聞いて欲しい』
「なぜ、今はダメなんだ?」
自分の事を押し込みそう言うと、城戸はゆっくりと2回瞬きをして顔を上げた。
『今のままじゃ、牛島君につり合わないから。だって牛島君、バレー部のスーパーエースだって天童君が言ってたし』
「天童?」
『そう、天童君。もしかしたら私が夢のカケラを掴んだ時、牛島君は今よりもっと有名人になってるかも知れないけどね?』
笑顔で言ってるが、それがムリして笑顔を作っている気がしてチクリと胸が痛み···その小さな肩を抱き締めた。
『あ、え?!···牛島君?!』
「頑張れ。自分が目指した者を掴み取るまで、精一杯···頑張って来い···」
そしていつか、と言おうとしたところで城戸がオレの背中に腕を伸ばし···ハッと息を飲む。
「城戸?」
『いつもビックリさせられてるから、お返し』
「···そうか」
『もう、行くね。タクシー待たせてるから』
そっと体を離して、オレに背中を向ける。
少しずつ離れて行く後ろ姿を、オレは黙って見続けた。
何か、言った方がいいのだろうか。
それともこのまま、何も言わない方がいいだろうか。
迷いながら、グッと拳を握る。
『牛島君!』
立ち止って振り返る城戸が、オレを呼んだ。
『ありがとう!それから···頑張ってね、若利君!』
不意をつかれて呼ばれた自分の名前に驚きを隠せず、だだ黙って···利き腕を軽く上げて応える。
その姿を見て、今までで一番の笑顔を向けると、城戸は車に乗り込み行ってしまった。
これで、良かったんだ。
そう自分に言い聞かせて空を仰ぐ。
この時期特有の曇天が、どこまでも続いていた。
天「若利クン!ちょっと?若利クンってば!」
「なんだ、天童」
天「なんだじゃないヨ!急に黙り込んでボケっとしちゃって!」
「すまない、考え事だ」
天「若利クンが考え事?めっずらしィ~!って言いたいトコだけど、どうせつーちゃんのコトでしょ?」
勘のいい天童の言葉に、思わず箸を落としてしまう。
天「あれ?もしかして当たり?!」
箸を拾いながら、ニマニマとする天童をチラリと見る。
「さぁな」