第26章 冬の温もり ( 牛島 若利 )
そうだ、とは言えず、軽く流しながら席を立つ。
「行くぞ天童、練習に遅れたら100本サーブだからな」
天「マ~ジ~で~?!」
騒ぐ天童を横目に、食器を返し食堂を出る。
体育館まで歩きながら、ふと足を止め空を見た。
あの日と同じ、この時期特有の曇天。
元気で···いるだろうか。
夢のカケラは、掴めたのだろうか。
もし本当に次があるのなら、迷うことなく城戸に伝えなければならない事がある。
その時は···必ず。
ニャ~ン···
『こら、イタズラしたらダメだよ』
聞き覚えのある声に、鼓動が早まって行く。
まさか、な。
そう思いつつも、足が勝手に花壇の方へと進んで行く。
息を飲み、そっと覗き見れば。
ニャ~ン!
『あっ、行っちゃった···』
ゆっくりと立ち上がる、いつかと同じ後ろ姿。
白衣こそ着ていないが、忘れることのなかった見知った後ろ姿があった。
「なぜ、ここにいる。夢のカケラは掴んだのか」
オレの声に軽く肩を跳ねさせ振り返る城戸は、少し髪が伸びただけで、あの頃と変わらぬ笑顔を向けた。
天「いたいた若利クン!って、え?つーちゃん?」
後から来た天童が、オレと城戸を交互に見て···ニヤリと笑う。
天「鍛治クンに、若利クンはお腹が痛いって···言っとくヨ?」
あの時と同じ言葉を天童がオレに投げかける。
「あぁ、頼む」
飛び跳ねながら立ち去る天童を見送り、城戸と向き合う。
『ちょっとだけ、寄り道したくなって一時帰国中なの』
「寄り道、か。たまにはそれもいいだろう」
『えっと、ただいま···かな?』
はずかしそうに笑う城戸の向こうで、雲が切れ日差しが覗く。
「···あぁ、おかえり」
初めて出会ったこの場所で、新たな日々が···始まる。
~ END ~