第26章 冬の温もり ( 牛島 若利 )
オレはなぜ、天童の話を聞いて···こんなにも消失感を抱く?
まるで、大切な何かを失ってしまうように。
立ち止まり、胸に手を当てる。
それまで感じる事がなかった感情が···ここにある。
···もう、会えないかも知れない。
そう思うだけで、心が···痛い。
「天童」
立ち止まったまま、振り返りもせずに天童を呼ぶ。
天「分かってるヨ、若利クン。鍛治クンには、若利クンはお腹が痛くて遅れるって言っとくヨ?」
「あぁ、頼む」
天「頑張ってネ~!」
天童が声を掛けてくるのも聞き流し、オレは走り出す。
教室、職員室···どこだ?
どこにいる?!
駆け抜ける廊下から外を見れば···いた!
昇降口の前で手荷物を確認する、見慣れた小さな後ろ姿。
···頼む、間に合ってくれ!!
小さな背中を目指し、その場へとまた、走り出す。
「城戸!!」
声を掛けても、届かないのか···城戸は立ち止まる事はない。
更に足を早め、この距離ならばと走りながら声を張り上げた。
「紡!」
小さな背中が立ち止まり、ゆっくりと振り返る。
『···牛島君?!』
切れそうになる息を飲み込み、城戸の元へと駆け寄った。
『びっくりした···名前で呼ばれた事なんて、1度もなかったから』
「留学、するのか」
今更な言葉を投げかける。
『うん···父の海外赴任の話は前から決まってて、それに合わせて家族で···って感じかな?』
「夢に、辿りつけそうか?」
『掴み取る!絶対、ムダにはしない···けど···』
言葉のない空間に、二人で佇む。
『牛島君、ロードワークの途中でしょ?だから、』
「城戸、オレはお前に伝えなければならない事がある」
やっと出た言葉を遮る様に、まっすぐ前を向いて言霊を放つ。
「オレは、お前が···」
言いかけて、次に出る言葉にブレーキをかける。
···好きだ、と、言って、どうするつもりだ。
これから夢を掴む為に旅立つ城戸に、それを伝えて困らせるような事があったら。
何かの時に、オレの放つ言葉が···楔になったら。
そう考えると···言うに、言えない。
『牛島、君?あのね、私も···ずっと言えなかった事があるんだけど···』
「なんだ」