第20章 未来予想図 ( 東峰旭 生誕 )
母さんが部屋から出ていくと、また、静まり返った部屋にひとりになる。
時計の音だけがチッチッと聞こえて、なんだろうなぁ···こういうの。
あぁ、そうか。
寂しい···っていうやつだ。
うちは昔から共働きだったから、小学生とかの頃はちょっと熱出たくらいだと、ひとりで留守番とかしてて。
なんか、その時の感じに似てる。
誰もいない家、母さんが仕事から帰って来るまで誰も来ないオレの部屋。
夕方になると、外から友達の遊ぶ声が聞こえて来て。
自分も一緒に遊びたいなぁなんて思いながら、枕に顔を埋めていたんだ。
大人になっても、熱出すと寂しいって思うもんなんだなぁ。
はぁ···
出るのは、ため息ばかり。
寝よ寝よ。
熱が高過ぎて、考えなくていい事まで考え出しそうだ。
早く回復しておかないと、正月あけたら部活始まるからな。
これから始まる激戦の為にも、いつまでも熱なんて出してられないんだから。
頭が埋もれる程に布団を引き上げ、寝返りをうつ。
耳元でカラカラとなる氷枕の音を聞いているうちに、オレの体も思考も、少しずつ睡魔に絡み取られて行った。
どれくらい寝ていたのかわからない。
けど、部屋に人の気配がして···
また母さんか。
大方、熱の様子でも見に来たんだろう。
まだ下がらない熱と体の怠さに目が開けられない。
『旭、まだ熱高そうだね···』
額に手が添えられ、そんな言葉が聞こえてくる。
『氷枕、取替えてあげるね。チョットだけ、ごめんね?』
そっと頭を持ち上げられ、氷枕がゆっくりと引き抜かれる。
母さんも、寝てる相手だとこんなにも静かに対応してくれるのか。
いや、起きてはいるんだけど目が開かないだけだけどね。
静かにドアが開いて、人の気配が消える。
あれ···この香りって?
そう思っても、ダルすぎてどうにもならない。
ちゃんと言われたようにしとけば良かった。
風呂上がりにしばらく濡れ髪のままでいたから、きっとそのせいで熱が出たのかも知れない。
後悔先に立たず、だな。
早く電話したくて、何よりも早く声が聞きたくて。
髪なんて後で乾かせばいいと思って。
はぁ···
もう、今日何度目だよと思うため息が零れる。
起き上がる事も、目を開けることも出来ず···オレはまた微睡みの中に落ちて行った。