第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
キミは、どんな思いで俺に言葉を伝えたんだろう。
ー さ、心優しい城戸先生?後はしっかり···頑張ってね? ー
あの言葉のあとに、キミが···1人で、戻って行ったんだと思うと胸が痛くなる。
また約束が守れなくなりそうだよ。
熱を帯びる目頭を押さえもせずに、ゆっくり天井を仰いだ。
「城戸先生?こんなところで、どうかされました?」
夜間巡回からナースセンターに戻ろうとする看護主任が、ライトを抱えながら声を掛けてくる。
「いえ、ちょっと···今夜は忙しかったな、って」
何気なく眠い目を擦るフリをして、涙を隠す。
「そうですね。でも、今夜は城戸先生と立花先生のナイスコンビが当直だったからこそ、無事に終わったんですよ?」
俺と、立花先生が?
「ナイスコンビ···また微妙な···」
無意識に、そんな言葉が飛び出してくる。
「ナイスコンビじゃありませんか。普段の会話の感じとかね?あら、噂をすれば···」
小さく笑いながら先の暗い廊下を見て、看護主任が俺に、ね?と肩をすくめる。
立「こんなところで、二人ともどうしたんだ?」
「···別にどうもしませんよ」
立「そう?怪しいなぁ···実に怪しい。城戸先生は若いから」
何がですか···と大きくため息を吐く。
立「ま、いっか。主任、コーヒー入れてくんない?メチャクチャ美味いやつ!」
「立花先生?私はお茶汲み係じゃありません」
立「えぇ···じゃ、仕方ない。ひとり寂しく自分で入れますかね」
「もぅ、そこまで拗ねるなら私がやります。もちろん、城戸先生にもね?」
えっ?主任が?!
「待って下さい、さすがにそれは申し訳ないので···俺達は仮眠取ってますけど、主任ほとんど今夜は不眠不休だし」
ドクターは特別急変した患者や、今夜みたいな緊急搬送がない限りはきちんとした睡眠時間は取れる。
当直当番と言っても、何もなければ外泊したのと変わらない時だってある。
医者としては、その方がいいのだろうけど。
でも当直ナースは俺達とは違って、言わば雑務のような仕事が細かにあるから。
仮眠···なんて名ばかりで、ほとんど眠る時間なんて無いに等しい。
1時間も休めればいい方だ。
だけど今夜は、その貴重な1時間でさえ削っていて···