第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
布団を引き上げてやり、心音に合わせてそっとトントンと繰り返す。
人は胎児の時に母体の脈動のリズムを聞いていた事で、この世に産まれて来てもそのリズムを感じると気持ちを落ち着かせる事が出来る···と、医学生時代に学んだ。
「せんせい、あのね」
眠気と戦いながら瞬きをして、俺の顔をじっと見る。
「さっきね、ゆめできれいなおねえさんにあったんだよ?」
「キレイなお姉さん?」
この子の言う夢でというのは、多分···
「そのおねえさんがね、こっちはくらくてあぶないから、きちゃダメっていっててね、いっしょにあかるいところにいこうねって」
「明るい方?」
「うん!おねえさんとあるいてたら、あかるいところにきて、まぶしくてぎゅっとしたら、さっきのこわいオジサンがいたの」
「···お姉さんは?」
「まぶしくなったら、いなくなっちゃった···」
···どういう、事なんだろう。
「お姉さんって、どんな人だったか覚えてるかな?」
つい、聞いてしまう自分がいる。
「えっとね、かみのけがながくて、めのしたのところに、ほくろ···が、あって、ね···」
長い髪に···目の下に、ホクロ?
「そのホクロって···寝ちゃったか···」
この子の話す人の姿に、心当たりがある。
梓に、よく似ている。
いや、梓そのものだ。
暗い所から、明るい所への道案内···
そっか···そういう事か···
繋いでいた手をそっと解き、布団の中に入れてあげる。
ゆっくり、休むんだよ?
軽く頭を撫でて、静かにその場を後にした。
ナースセンターへと続く廊下で、ふと足を止める。
壁に背中を預け、さっきの言葉を思い出す。
こっちは暗くて危ないから、来ちゃダメ。
明るいところに行こうね···か。
梓?
キミが、あの子をこっちに連れて来てくれたんだね。
それには、感謝でいっぱいだ。
小さく灯る命の光を、未来へと繋げる事が出来たんだから。
だけど···
胸の奥に、何かがつかえて苦しくなる。
こっちに来ちゃダメ···って。
暗くて危ないから···って。
一緒に明るい方へ···って。
キミだけは、戻って来ることが出来ないと分かっていながら、それでも···明暗別れる道のりを、歩いて来たんだね···