第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
ー 桜太···泣かないで? ー
泣いてなんかいないよ。
ー 約束、したでしょう? ー
だから、泣いてないって。
何度も温もりを確かめるように、見えない何かを抱き寄せる。
心と心で繋がる会話が、目頭を熱くする。
ー 慧太君にバラしちゃうよ?桜太が泣いてましたー!って ー
ここで慧太の名前を出すとか···
ー 桜太、私はちゃんと···知ってるから ー
知ってるって、なにを?
ー 本当は···桜太が寂しがり屋さんだってこと。だから、泣かないで?私はいつも···桜太のそばにいるから ー
梓?
ー さ、心優しい城戸先生?後はしっかり···頑張ってね? ー
腕の中の温もりが、少しずつ薄れていく。
梓?
「待って梓!もう少しだけ···」
薄暗い部屋に響く自分の声に驚く。
いつの間に、眠っていたんだろう。
今のは、夢···だったのか?
いや、確かにここに···
「参ったな」
苦笑しながら、すっかり冷え切った缶コーヒーに口を付ける。
「心優しい···か」
優しいばかりじゃ、この仕事は務まらないんだけどね。
ひとつ伸びをしてデスクに放り投げていたネクタイに手を伸ばすと、簡易ベッドに置いていた院内電話が騒ぎだした。
起きてて正解だなと、急ぎ足で電話に対応する。
「城戸先生、お休みのところすみません」
看護主任からか。
「大丈夫、ちょうど起きたところだから。もしかして誰か急変?」
「あの···救搬のお嬢さんが···」
あの子が?
···まさか?!
口を閉ざす看護主任に、ヒヤリとする。
「意識回復しました。バイタルも正常値です」
「主任?驚かさないで下さい」
ため息混じりに言えば、看護主任はクスリと笑う。
「立花先生が、そういう風に伝えるように、と」
まったく、あの先生は···
「それから、立花先生がなるべく早くと仰ってます」
「容態が安定したのに、ですか?」
「はい···あの、泣かれて困っていらっしゃいます···小児科は難しいと嘆いておられます」
普段の行ないが···と言うべきだろうか。
「分かりました、すぐ行きます」
通話を終え、ネクタイの代わりに聴診器をかける。
梓、行ってくるよ。
心でそっと呟き、ドアを閉めた。