第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
寝返りを打ち、毛布を引き上げる。
薄暗い部屋の中に、衣擦れの音だけが存在を示す。
普段の当直の時は、仮眠とはいえ、これ程までに寝付けない事はないんだけど。
今夜は、どう頑張ってもムリそうだ。
理由は分かってる。
梓···
キミを思う時は、こうして眠れない夜を何度も過ごして来た。
今夜もきっと、そう。
今でもキミがそばに居たら、今夜の不思議なめぐり合わせを話していたかも知れないね。
軽い気持ちでは話す事が出来ない内容ではあるけれど、キミと同じ名前の女の子に会ったんだ···なんて話したら、どんな顔をするだろうか。
···拗ねる?
それとも、怒る?
そしたら、小さな女の子だよ?って···俺はタネ明かしをするんだ。
もう、叶うことがないやり取りだけど。
思い浮かべるだけなら···いいだろ?
ひとり嘲笑して、やはり眠れそうにないなと簡易ベッドから起き上がる。
まだ、雪は降り続けてるだろうかとカーテンを引けば、相変わらず深々と舞い降りる雪たちが風に吹かれている。
人寂しくなるのは、雪のせいかな?
凍える夜には、人は暖かさを求めて人肌を暗闇を彷徨う。
真っ暗な中で、手を伸ばして、手を伸ばして···温もりに触れた時···心を寄せ合うんだ。
俺の側には温もりがないけど、目を閉じれば···温もりのカタチは見える。
それだけで幸せだと思える。
なんて。
感傷に浸ってばかりは、いられないんだな、俺は。
家に帰れば自由人な弟と、甘えん坊の宝物が日々を忙しくしてくれるからね。
でも、そんな忙しい毎日の中でも。
遠くへ行ったキミとの約束は覚えているから···待ってて?
あの日、そっと絡めた小指を空に向け目を閉じる。
フワリ···と空気が変わった気がした。
この感じ···
あぁ、そうだ。
俺が忘れるわけ、ない。
「梓?キミはいつもそうやってイタズラをする」
紡が甘える時にする感じとは違う、背中の暖かさ。
カーテンを閉め、ゆっくりと椅子に腰掛ける。
現実を見る目では見えないものが、目を閉じる事で鮮明に浮かび上がる。
「おいで···梓」
両手を広げ、暖かい空気を包み込む。
それは、あの頃と少しも変わらない···温もり。
手繰り寄せたくても届かない温もりが、ここに。