第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
もう1度、指先がピクリと動く。
俺の声が、ちゃんと届いているんだね?
自分で、口元が緩むのが分かった。
あれから立花先生がご両親を連れてきて面会をさせ、またそこで色々な状況の説明をして病室へと送って行った。
運良く···と言うのもおかしな言い回しだけど、今夜の小児科入院の患者は今のところ、この子だけだという事で、朝の申し送りの時間になるまでは担当することになった。
未だ、意識浮上はなく···規則正しい呼吸と、規則正しい心音が機械を通して記録されて行く。
「梓ちゃん、外は雪が降ってるんだよ?窓から見える景色は全部真っ白で、とてもキレイだよ?」
繋がれたままの指先にもう片方の手を被せ、早く目を覚めしてごらんと祈りを込める。
「梓ちゃんに、内緒の話をしてあげる。あのね、キミは···先生のとても大切な人と、同じ名前なんだよ?」
自分で、何を言ってるんだろうかとは思う。
だけど···何となく同じ名前の響きに引き寄せられて···
「とても明るくて、元気で、時々しょうもないイタズラを考えたり、急に怒ったり、泣いたり···でも···」
目を閉じれば、元気な姿のアイツが浮かぶ。
最後にあった時の···姿でさえ、昨日の事のように。
「とっても···大好きだったんだ」
もちろん、今でもだけどね?と笑いながら付け加えて、眠り続ける子の頭を撫でる。
「キミにもいつか、そんな人が出来るから。だから、早く元気になるんだよ?」
何度もそっと頭を撫でていると、遠くから足音が響いて来て、ドアが開けられる。
立「城戸先生も少し休んだ方がいい」
「立花先生···でも」
立「いくらオレより城戸先生が若くて体力あるからと言っても、仮眠は取らないとイケメンが崩れるぞ?」
「は···ぁ?」
突拍子もない言葉に、思わず間抜けた返事が出てしまう。
立「ま、多少崩れてもオレの方がちょっといい男だけどな」
パチン!と音がしそうなウインクを飛ばしながら、立花先生が笑ってみせる。
敵わないなぁ···この先生には。
「立花先生、宜しくお願いします」
そう伝えて、簡易ベッドが備えてある当直室へと向かった。