第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
ここへ来る前に声をかけようとは思ったけど、軽傷で済んでいるとは言ってもご両親だって負傷患者だ。
処置を終えたばかりで、まだ事故直後の興奮状態が見えていたから何も告げずに救搬室を後にした。
立「衝突の際のショックが強かったんだろう。いま我々に出来ることは、待つことだけだ。検査の結果の事もあるし、オレが話をしてくるから、城戸先生はここで様子をチェックしててくれ」
「分かりました」
立花先生の足音が遠ざかるのを聞きながら、小さく息を吐く。
小さな体に取り付けられている様々な医療機械。
ひとつひとつが規則正しく動いていて、ただそれだけが···生きている証になっている気がして。
恐る恐る、そっと頬に触れてみる。
「お母さんも、お父さんも心配してる。早く目覚めてあげなきゃね、梓ちゃん?」
声をかけても、今すぐに何かが変わるわけではない。
なのに、どうしても···声をかけずにはいられなかった。
しっかりしろ、俺。
立花先生の言うように、待つことが必要な時もある。
それは、頭では分かっているけど。
なぜだか今は、たくさん声をかけてあげずには···いられなかった。
「そうだ。梓ちゃんは今日、お誕生日なんだってね。Happy Birthday、梓ちゃん」
「冬休みの宿題は、たくさんあるのかな?」
「勉強は何が1番好きかな?」
どれだけ話しかけても返ってこない答えに、心が折れそうになる。
「体が冷えたらいけないね、ちゃんとお布団かけよう」
布団を掛け直そうと、点滴に繋がれた手をそっと掴む。
「梓ちゃ、ん?」
ピクリと指先が反応して、ほんの僅かの力で俺の人差し指を握り返して来た。
まるで、赤ん坊がそうするのと同じように。
俺はその手をそっと自分の手で包みながら、ベッドサイドの椅子に腰を下ろして、ポケットから院内電話を取り出した。
「立花先生ですか?城戸です···今、患者に把握反射がありました。偶然かも知れませんが、一応ご報告をと思いまして···はい、分かりました。お待ちしております」
通話を切り、視線を元に戻す。
「もうすぐお母さん達がここへ来てくれるよ?それから、凄い先生も一緒にね。ちょっと変わってる人だけど、でも···素晴らしい先生だか、ら?」