第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
「あの子は、自分達が望んで望んで···やっと産まれてきてくれた大切な宝なんです」
望んで望んで、やっと産まれてきた女の子の名前が···梓。
必然と、女の子の存在に···紡と、梓の姿が重なって行く。
自分と繋がりが深い輝きが、2つも。
「梓ちゃんは···きっと、大丈夫です」
慰めにも至らない言葉が、俺の口から零れていく。
梓···
もし、ここに君がいたら···なんて言うだろうか。
絶対など約束が出来ない命の世界で。
きっと大丈夫なんて、言ったらいけないと叱咤するだろうか。
だけど···だけどね、梓。
いま俺は、僅かに灯っている命の灯火を小さくする訳には行かないんだよ。
「処置を続けます」
静かに、たった一言それだけ伝え、ご両親を手当していく。
時折鳴り出す院内電話の音が、自分の物かと何度も気にしながらも、緊張と疲労で憔悴していく人達の処置を終えていく。
···まだ、か。
時計を見る度に息苦しくなり、天井を仰いでは息を吐く。
どうか、あの子に聖なる奇跡を···
厳しい現実に生きなければならない自分が、神の宿す光にしがみつきたくなる。
「城戸先生、立花先生が戻られました。集中治療室で、城戸先生の事をお呼びです」
「分かりました、すぐ伺います」
早鐘のように鳴り出す鼓動をそのままに、俺は救搬室を後にした。
立「来たね、城戸先生」
ガラスで遮られた部屋のドアを開けると、立花先生が振り返る。
「···検査の方は、どうでしたか?」
立ち竦む俺に、立花先生は落ち着いた様子でカルテを手渡してくる。
立「急を要する事だったから、いま出来る範囲の検査では脳に以上は見られなかったよ。脳内出血もない」
その言葉に安堵しながらも、カルテに目を落とす。
立「ただ···右膝に1箇所、左足に2箇所の骨折が見られるから、長い入院生活にはなってしまうだろう。リハビリを含めて、数ヶ月はね」
「そう、ですね···」
子供の回復力は早い。
とは言っても···
立「なんにせよ、意識が戻らない事には」
「はい」
立「ご両親には?」
「ここまでの事は説明してあります。ですが、これから先の事は、まだ···何も···」