第18章 雪···ひとひら ( 城戸 桜太 X'mas特別番外編)
慌ただしく受け入れの為の準備が進んで行く。
誰もが無言で、そして俺もその中のひとり。
小さな女の子が、こんな日に···
家族で外出した帰りだろうか?
それとも。
冬休みに入った事で、これから遠出する予定だったのだろうか?
静かな部屋で、無機質な音だけが響く。
「搬送到着しました!お願いします!」
看護主任がストレッチャーを押す救急隊員を連れてバタバタと処置室へと入って来る。
詳細が記された書類を受け取り、事故直後の応急処置をした隊員から話を聞きながら目を通して行く。
見た目には出血痕などはなくても、まだ意識浮上がないと言うことは···これは、時間との戦いだと背筋が凍る。
立「検査室を全開放、当直技師も揃えた。連れて行こう。ご家族への説明は、」
「自分が行きます」
立「頼んだ」
ひとつ頷き、早足で検査室へ向かう後ろ姿を見送る。
俺のやるべき事は···
廊下に出て、女の子のご両親を探す。
「あの!」
白衣が引っ張られ、足が止まる。
「子供···うちの子は?!」
搬送されて来たばかりの二人が、親御さんか?
搬送されて来た子供は、ひとりだけ。
あとは成人ばかりだから、恐らくそうであろうと確信する。
「今、緊急で検査室に向かいました。結果が出て見ないとハッキリとはお伝え出来ませんが···まだ意識浮上はありません」
「そんな···」
事故の際に負ったのか、顔や手の切り傷からの出血を押さえながら絶望的な表情を覗かせる。
近くにいた看護主任を呼び、手当てを受けさせるべく処置室へと促す。
「お嬢さんに付いているドクターは、素晴らしい人です。その人が今、懸命に動いてくれています」
手当をしながら、ポツリポツリと話す。
立花先生は普段の飄々とした姿の方がどうしても目に付いてしまうけど、この病院では指折りの中に入る程の腕前でもある。
尊敬する医師の1人だ。
絶対、言わないけどね。
「先生」
母親である女性が、声を詰まらせて俺の腕に縋ってくる。
「あの子は今日、誕生日を迎えたばかりなんです。だから···」
悲痛な心の叫びが、ひしひしと伝わってくる。
「あの子を···どうか梓を、助けて下さい」
···?!
今、なんて···言ったんだ?
突然耳に入った名前に···心が震え出す。