第17章 悪夢は何度でもやって来る ( 烏養 繋心 )
なぜ、こんな事に。
部屋でジャージを引っ張りだして着替えながら、ふと思い直す。
確かに、売り言葉に買い言葉で煽られて···いや、オレが勝手に煽られたんだけどな。
···結果的にコーチを引き受けちまった。
あの話の流れで音駒とかいうワードを出されたら、こう、思わず黙って見過ごすワケには行かねぇ!···とか思っちまってよ。
午前中の嶋田の来訪は、これの予告編か?
いや、それよりも昨夜の夢が予告編なのか?
···わからねぇ。
けど、ひとつ言えることは。
成り行きとはいえ、引き受けちまった事は仕方ねぇ。
オレの自己責任だ。
ま、とりあえずあの熱心な先生が顧問をやってるバレー部員達の実力を見て、そっから考えるか。
どの程度の力の猛者達なのか自分の目で確かめねぇと、指導もクソもねぇからな。
なりより、音駒との練習試合で恥を晒すワケにゃ行かねぇし?
向こうにはオレの知り合いじゃないかっていうコーチがいるって話だ。
もしホントに知り合いなら、それは。
···直井、だろう。
オレもアイツも、ベンチ組だったしな。
直接対決なんてなかったけど、それでもアイツがコーチとして指導してる音駒の奴らに、オレの後輩に当たるやつが情けねぇ試合なんざ晒したら末代までのオレの恥だ。
「待たせたな、先生」
武「いえ、お気になさらず。それでは烏養君、行きましょうか」
店の外で立ちぼうけしてる人影に声をかけ、並んで歩く。
隣をニコニコしながら歩く先生を見て、してやられたり···と、また思う。
もし、コーチをホントに引き受けるなら音駒との練習試合までだが···
これから後の様子見で、取るに足らない状態だったら話は別だ。
···断ろう。
そんな逃げ道を思い浮べながら、慣れ親しんだ通学路を歩く。
この歳になって、またここを学校へ行く為に歩くとは。
はっきり言って卒業式以来だぜ、全く。
懐かしい校門を通り抜け、体育館までの懐かしい道を進む。
在学中は、アホみたいに毎日通った道のり。
春は、桜の花びらが体のあちこちに貼り付いたのを払いながら。
夏は、早朝からジリジリと照りつける陽の光を逃れるように校舎の影を渡り歩き。
秋は、学祭で仕上がったカップルを羨まし···いや、横目で見ながら追い抜き。
冬は、この土地ならではの雪を踏みしめて···歩いた。