第13章 オレの道標··· ( 東峰 旭 )
渡された服に着替えると、城戸さんはふたり分の制服を抱えて部屋から出て行った。
大きなガラスに映る、オレの姿。
絶対に自分じゃ選ぶこともなく買わないようなデザインの、ちょっと派手な感じの、大人っぽい服···
大地やスガが見たら、きっと大笑いするだろうなぁ···なんて、マイナスな想像をしてしまって苦笑する。
『すみません、何だかバタバタしてしまって。コーヒー落としましたから、どうぞ』
「ありがとう。なんか返って着替え借りちゃって申しわけない感じが···」
『それは大丈夫です。私が無理をお願いしましたし、それに東峰先輩、私に傘を傾けてくれてたから随分と濡れてましたから』
···気付いてたのか。
やっぱり、西谷みたいにはいかないな。
「バレてたのか。風邪でもひかせたら大変だって思ったからさ」
『お気遣いありがとうございます』
ニコリと笑って、城戸さんはそう言った。
『で、では、さっそく···』
「うん、電話してみようか?」
小さく頷き、城戸さんがメモに残された番号をひとつひとつていねいに押していく。
いつも朗らかな笑顔でいるこの子の顔が、緊張のせいなのか強ばっていた。
『あ、もしもし···あの私···』
どうやら繋がったみたいだな。
まずは電話が繋がった事にホッとして、香りが立つカップに口を付けた。
雨に濡れて冷えた体を、淹れたてのコーヒーがゆっくりと巡っていく。
『本当ですか?!はい···はいっ!会いたいです!』
会いたいです?
誰と?!
さっきまで強ばっていた表情が急に明るくなり、とても嬉しそうな笑顔に変わっている。
『じゃあ、雨が上がったら必ず伺います。はい、ありがとうございます···失礼します』
通話を切り、大きなため息を吐くのがわかりオレもカップを置いた。
「電話の相手は、どんな人だった?」
『どんな人?って···おばあさんでしたけど···』
「おばあさん?」
会いたいですって言ってたから、ちょっとだけ気になったんだけど···おばあさん、だったのか。
『はい、おばあさんが猫ちゃん2匹連れて帰ってお世話してたら、可愛くて仕方なくなったから家族として一緒に住む事にしたって』
「本当?!」
『はい!それで、近いうちに猫ちゃんに会いにおいでって』
「猫の方だったのか···」