第1章 〖 恋よりも、愛よりも 〗人気投票1位記念 城戸 桜太
ベンチに座り、手紙を取り出す。
俺はゆっくりと息を吐き、読み始めた。
〖 桜太へ
急に手術が早まる事になって、桜太に知らせたくて手紙を書いています。
この手紙が届く頃には、手術は終わっているかも知れないけど、それでも・・・書きたくて。
移植手術って事は、よく考えたらとても残酷で、切なくて。
誰かの命が終わり、私はその命を受け継いで生きられるって事だから。
桜太と最後に会ったあの日、なかなか寝付けなくて。
あの部屋でひとり、桜太の胸の暖かさを思い出しながら夜空を見てた。
とても綺麗な星空で、桜太も同じ空を見てる?なんて思いながら。
それからね、とても驚いた事があって。
翌朝、部屋を出る支度をしていたらあの人が私を迎えに来てくれて。
何も聞かず、何も言わずに、私をそっと抱きしめてくれた。
普段は忙しくて私を迎えに来るなんて、そんな事しなかったから、驚きと共に嬉しかった。
桜太が言った通り、私がいま守るべきパートナーはこの人なんだって、私はこの人に守られているんだって、改めて感じる事が出来た。
だから私は、今をこの人と共に生きていきたい、移植手術を受けることも、この人との未来の為なら、そう感じることも出来た。
でもね、桜太。
本当は、怖い。
成功例の方が多いとは言われていても、もし、私がそこに当てはまらなかったら。
そう思うと毎日毎日、今日のこの1日を思い残すことなく生きなければ・・・
そんな事ばかりが頭に浮かんで、眠るのが怖い。
眠ってしまったら、また同じ1日が始まってしまうから。
私は私の幸せな未来の為に、歩き出したいと思ってるのに、私ってなんて弱いんだろうって。
だけど、もし・・・もし私に何かあったら。
その時は、桜太にひとつだけお願いがあるの。
もし、そんな時が来たら私を少しだけ思い出して欲しい。
甘えたがりで、寂しがり屋で、ワガママだったな・・・それだけでいいから。
でも、泣くのはダメよ?
桜太が泣いたら、私は悲しい思い出の中で生きる事になるから。
桜太の涙がこぼれそうになったら、私がその時は星を降らせてあげる。
だから涙は、いつか再会出来る時まで、しまっておいてね?
それでは、城戸家の皆さんの幸せを祈って、この辺で。
梓 〗