第12章 カッコイイって、難しい。 ( 山口 忠 )
「城戸さん?ちょっといいかな?」
そう言いながら城戸さんが抱えていたブランケットを広げ、猫耳カチューシャをそっと外して、代わりにふわりと頭から被せた。
『山口、君?』
「視野が広いとさ、周りが見えちゃうから怖くなっちゃうでしょ?だから、ほら!これなら外の景色は見えないし、怖くない!」
ね?と、念を押してから、元いた向かい側にそっと戻った。
「それでも怖かったら、まっすぐオレを見て?ここが高い所だってこと忘れちゃうくらい、いっぱい話しよう?」
これが、今のオレに出来る···精一杯。
もう、ヘタレでも、カッコ悪くてもいいや。
城戸さんが笑ってくれたら、それでいい。
本当はさ、城戸さんの周りにいる人達みたいに、かっこよくキメたいけど。
オレにはムリだって分かったから。
城戸さんがオレをまっすぐ見て、オレも城戸さんをまっすぐ見て、少しでも話のネタを増やそうと今日1日を振り返りながらおしゃべりをする。
「まさかココで日向に会うとは思ってなかったよ」
『ほんとだね~、私もビックリしちゃった!』
「明日学校行ったら、いろいろ聞かれちゃうかもね?」
そうだね、と城戸さんが言いかけた時、ガタンっと音がしてゴンドラが大きく揺れた。
「なに?!···びっくりした!」
思わず外を見て、今いる場所が観覧車のテッペンだと分かるまで時間はかからなかった。
『や、山口君···何か凄い揺れてる···』
「大丈夫だよ!大丈夫!だから落ち着いて?」
そう言いながらオレは、もう1度外を見る。
あれ?もしかして···止まってる?!
観覧車のテッペンで風に吹かれてユラユラとする景色は、さっきと何ひとつアングルが変わっていない。
ー ご乗車中のお客様にご連絡申し上げます。ただいま機会トラブルの為に一時運転を停止しております。点検が終わり次第、運行させて頂きます。大変恐れ入りますが、そのままお待ち下さい ー
そのままお待ち下さい、って···ここで?!
こんなテッペンで?!
『うそでしょ···こんな高い所で待つとか···』
被せたブランケットがはらりと落ちて、城戸さんは両手で顔を覆った。
ゴンドラはまだ、グラグラと揺れていて。
正直オレも、ちょっとビビる。