第12章 カッコイイって、難しい。 ( 山口 忠 )
遠慮がちにシャツを掴む、城戸さんの手。
直接肌に触れてるワケじゃないのに、なぜかその部分が熱く感じて、妙に意識しちゃって。
目的の駅に着くまでずっと、ドキドキが止まらなかった。
「ん~、外の空気が新鮮に感じる!」
目的地の駅で降りて、何より先にグンッと背伸びをしてみる。
『ごめんね山口君、なんかギュウギュウに押されてたでしょ?』
「そんなの全然平気だよ!あんなに混んでたんだから」
『でも・・・あっ!山口君ゴメン!ほんとにゴメンね!!』
城戸さんが急に慌ててゴメンを連発して、オレも釣られて慌てた。
「あ、いや、だからそんなに謝らないでって!」
『そうじゃなくて、その・・・山口のシャツに・・・』
え?オレのシャツ??
城戸さんの目線を辿るとオレのシャツに・・・口付けたみたいなリップの跡があって。
「あ、わわわっ・・・」
『ホントにごめんなさい。クリーニング出すから、帰りにでも渡して?』
「平気!大丈夫だから!むしろ大歓迎!」
『え?』
「えっ?!あ、な、何でもないよ!あはは・・・」
危ない危ない・・・オレ何言ってんだよ。
「あああのさっ!とりあえずオレ、待ってるから、その、行って来ていいよ?」
『どこに?』
「ここ、擦れちゃってるから」
言いながら城戸さんの唇にちょこんと触れる。
『え?あ・・・ゴメンね、すぐ戻るから!』
何か急に焦って、城戸さんがトイレに小走りで行った。
あんなに慌てなくてイイのに・・・でも、可愛いなぁ。
ちょんって指先で触れただけなのに・・・ん?
そう思いながらオレは自分の指先をマジマジと見る。
指先には城戸さんのリップが微かに付いている。
柔らかいゼリーみたいな感触だった。
その感触はまだ、オレの指先に残っていて。
周りのざわめきが遠くに聞こえて、代りに早鐘のように鳴り出す胸の音が耳を支配する。
もし、この指先をオレが自分に当てたら、とか。
邪な考えが浮かんで来る。
ー 付けちゃえよ···ほらほら、早くやっちまいな ー
ー ダメだよ、そんなの! ー
悪魔な囁きと、良心が···バトルする。
今なら、誰もみて···ない?
ゴクリと息を飲み、そっと、ゆっくりと指先を近付けていく。
『お待たせ!何してるの?』