第11章 ハートの秘密 ( 城戸 桜太 )
「そんなひ弱じゃないだろ?それに、医者ならここにいる」
眉ひとつ動かさずにサラリと交わし、手持ち無沙汰に何となく雑誌を広げて見るも、記事なんて全然頭に入って来ない。
紡がキッチンから何回かに分けて、二人分の食事を配膳してくれる。
その間も何となく落ち着かずに視線だけで紡を追ってしまう。
慧「お前、そわそわしすぎ。落ち着け」
頬杖をついた事が慧太が、ニヤリと笑う。
「うるさいよ」
慧「あっそ?・・・雑誌、逆さまだけど?」
「なっ?!」
慧太に言われ、初めてそこで逆さまに開かれた雑誌に気がつき慌てて閉じる。
そんな姿を見た慧太は、頬杖をついていた手を離しテーブルに伏せ声を殺して笑い出す。
はぁ・・・
今日はこんなのばかりだ。
これから暫く・・・ネタにされるのだろうと思うと頭が痛くなる。
『桜太にぃ、さっき嫌いって言ったのは違うから。お詫びにコレ・・・』
ため息を吐いたと同時に俺の傍らに紡が立ち、甘い香りが漂うマグカップをスッとテーブルに置いた。
これは前に作ってくれた物と同じ、コーヒーに小さなハート型のマシュマロがたくさん浮かべてあるやつだ。
・・・紡。
こんなの見せられたら・・・お詫びとかそんなの通り越して、俺は飛び上がっちゃうじゃないか!
・・・なんて思いつつも、そんな事を微塵も感じさせないように平静を装う。
「紡、食事はちゃんと、」
慧「桜太」
紡にきちんと食事をする様に言葉を掛ける俺を、慧太が止めて首を小さく振る。
慧太は心配しないのか?
『・・・おやす、あ!忘れてた』
そう言って紡がテーブルに出されたケチャップを手に取り、俺のオムライスにハートを描き始めた。
ハート・・・無意識に緩み出す口元を隠し、何も言わずに見続けた。
『慧太にぃも』
慧「オレのはいいよ。今日は桜太に譲ってやる」
『ふぅん・・・せっかく描いてあげようと思ったのに』
言いながら慧太のスプーンに、紡が溢れんばかりのケチャップを絞り出した。
慧「おいコラ、なんの嫌がらせだよ・・・」
『じゃ、おやすみなさい』
「あ、あぁ、おやすみ紡・・・」
ケチャップのハートから目を離さないまま、おやすみを伝えた。