第11章 ハートの秘密 ( 城戸 桜太 )
だったら、慧太のとっておきのヤツをナイトキャップにして、それで寝てしまおうかとも思う。
いずれにせよ、今日はもう・・・寝よう。
人の気配のするリビングのドアを開けながら、まるで流れ作業のように慧太に声を掛けた。
「慧太、掃除もしたしシャンプーも詰め替えしといたよ。浴室乾燥もかけてるから・・・あ、紡・・・」
なんで紡が・・・あ、いや、そうじゃなくて。
慧太と仲良くキッチンに立つ、紡・・・
ー オレは紡に、大好きって言われたぜ? ー
さっきの慧太の言葉が脳裏を掠め、消えて行く。
兄妹仲良く・・・は、良いんだけど。
何だか今日は、ちょっと・・・
『桜太にぃ、下・・・履いたら?風邪ひくから』
紡に言われ、普段ではありえない姿でいた事を思い出し・・・慌てる。
「えっ?!あっ!!いや、紡がいると思ってなかったから・・・ちょっと待ってて!」
バタバタと大人らしからぬ物音をさせながら、自室まで急ぐ。
なんで紡が?
寝たんじゃなかったのか?
いやその前に、なんでこんなタイミングで俺はとんでもない格好を?!
持っていた着替えをベッドに放り出し、代わりの物を着る。
シャツだけでも着ていて良かった。
慧太のように下着一枚状態なんて晒して、更に嫌いだとか言われたら・・・
風呂上がりだというのに、背中が冷やりとするのを感じながら、小さくため息を吐いた。
リビングへと戻ると、キッチンにはまだ紡が立っていて、ドアの方へ背中を向けながら何かをしていた。
華やかな香りが漂っているあたり、慧太に言われてコーヒーを落としてるんだろう。
慧「桜太、いま持ってくからテーブルついてろよ」
「あ・・・いや俺は・・・」
食事はやっぱり・・・と言いかけて、カウンターの向こうの紡が視界の隅に入り、黙って座る。
「慧太、紡が降りて来てるなんて聞いてないよ・・・」
小声で呟けば、慧太は口端を緩め俺を見る。
慧「だって聞かれてねぇし?」
「だからって・・・」
慧「そして報告する義務も、オレにはねぇし?」
こンの・・・タヌキめ・・・
ニヤつく慧太のスネに軽く一撃をいれ、小さな反撃をした。
慧「お前なぁ、折れたらどうすんだよ・・・」